東京では渋谷のル・シネマだけの単館上映。

いい映画なので、ごらんになることをオススメしますが

忘れないうちに、ラストまで書いたあらすじ

(といっても解釈が間違っている可能性あり)をアップしておきます。

 

 

これからご覧になる予定のある方はこちらだけ読んでくださいね
 

 

 

 

映画 「彼女のいない部屋」【再】 2022(令和4)年8月27日公開 ★★★★☆

(フランス語・英語・ドイツ語; 字幕翻訳 横井和子)

 

 

家族が寝静まる明け方

クラリスはポラロイド写真を並べ(神経衰弱をやってる?)

「ああ、やりなおしよ」とつぶやきながら、写真を床にたたきつけます。

そして、手早く身支度を整えると、

眠っている幼いポールを抱き上げて夫マルクのとなりに移し

姉のリュシーに視線を送ると、バッグを持って家の外へ。

ガレージに布をかけて止めていた古い赤い車(AMC・ペーサー)のエンジンをかけ、走り出します。

 

マルクが子どもたちに食事をさせて学校へ。

「ママからなにも聞いてないのか?」とマルクはちょっと苛立っています。

「パパのライターがないね」

リュシーはママのスマホに留守電をいれます。

「今どこ?」

「鍵をあけておくから、こっそりポールに会いに来て」

 

今ピアノを弾くのにハマってるリュシーは

時間があれば、いつもピアノの前にいます。

 

家を出たクラリスはガソリンスタンドに立ち寄ると

開店前でしたが、店主の女性は店をあけてくれました。

「あの車、動かすの久しぶりでしょ? 点検しておくわね」

「海を見に行こうと思って・・・」

夫のライターはクラリスが持ち出していました。

 

クラリスは笑顔で車を走らせています。

カーステレオからはリュシーの弾くピアノ曲が流れ・・・・

 

クラリスは英語・フランス語・ドイツ語(多分スペイン語も)が堪能で

彼女の仕事は観光ガイドに帯同する通訳。

ある日、客の父親が子どもをしかりつけるのを見て激高し、

お客に向かって「このひとでなし!」と叫びます。

 

突然「マルク!」といって、よその男性にだきついたり

倒れこんだり、

クラリスの精神状態は不安定です。

その都度、まわりの人たちは彼女にやさしく接してくれます。

 

そのころ、マルクは妻の置いていったものを処分し

「ママの香水を捨てないで!」とポールに泣かれます。

                (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

 

監督からのこういうメッセージを尊重すると、

前回はここまでしか書けませんでした。

 

今日はこのつづきから(ネタバレ

 

雪山で山岳救助隊の救助活動。

「30代の男性と子どもふたりが行方不明」

という無線が流れます。

マルクが子どもふたりをつれて

雪山で事故(雪崩?)にあったらしい。

雪が解けるまで捜索は難しい・・・

というようなことをいわれます。

 

雪にとざされたあの赤い車のウィンドウの雪を払って

外からのぞき込むクラリスの姿。

 

10年くらい過去に戻って

はじめてであった頃のマルクが登場。

ふたりはディスコ?で出会い、すぐ激しく愛しあいます。

若いマルクはあの赤い車に乗っていました。

 

演奏者たちが中庭にあつまり、音合わせ。

部屋のなかからはコーラス隊の歌うキリエ・エレイソン(ロッシーニのミサ曲?)が。

そしてピアノ伴奏をしているのは成長した娘のリュシーでした。

 

ホテル?のロビーにあるテレビからは「アルゲリッチ、私こそ音楽」の

ドキュメンタリーフィルムが流れています。

となりにいたフルート奏者の男性のシャツのボタンをあけて

胸毛に触ろうとするクラリス。

 

自宅の庭のシーン。

成長したポールのために、庭にツリーハウスがしつらえられ、

リュシーへのグランドピアノが運び込まれていきます。

それを家の外から車にのったまま眺めるクラリスの姿。

 

パリ音楽院受験を控えたリュシーは

列車がモンマルトルにつくまでの間も、時間を惜しむかのように

指を動かし、座席でエアでさらいます。

そしていよいよ審査員のまえでの本番。

審査会場にはいりこんだクラリスをみて、リュシーは弾けなくなります。

 

「あなた誰?娘をつけまわして・・・」

「警察呼びますよ」

クラリスが成長したリュシーと思ったのは

まったくちがう、よその少女でした。

 

またある時は、アイスホッケーをする子どもの中に

成長したポールの姿をみつけて

リンクに降りてしまうこともありました。

 

 

そして捜索活動が再開し、クラリスは前とおなじコテージに宿泊します。

「一番眺めのいい部屋よ」と宿の主人は鍵を渡しますが

「広い部屋にしてちょうだい」と家族で宿泊した4人部屋を選びます。

下のカフェでは(クラリスひとりなのに)

「コーヒー2つとココアを2つ」

「カフェオレボウルで」という注文をします。

 

「スペインの救助隊がなにかを発見した」

という無線が入り、3つの遺体が運ばれていきます。

 

涙も枯れはてたクラリス。

老人がそんな彼女に椅子をすすめてくれます。 (あらすじ ここまで)

 

 

 

いちおう、ラストまで書いてみましたが

自分の解釈で書いているので

まちがっていたらすみません。

 

冒頭は、

「突然家族の前からママが姿を消し、家族は日常生活に困ってる」

と思われるようなシーンがしばらく続きます。

 

敢えて「違和感」というなら

かなり親しいと思われるスタンドの女性が

幼いリュシーやポールのことに全く触れないで

「やさしく旅に送り出す」のが 若干不自然と思われるくらい。

 

実は、以前映画館で観た予告編?だったかで、

クラリスがベランダからまさに飛び降りようとしてるような映像があったんですね。

 

 

なので、私は観る前から、

「クラリスは(家出ではなくて)すでに死んでいる」

「成長していく子どもたちを見守るのは、『ゴースト目線』?」

と思いながら見てたんですが、

実は亡くなっているのはマルクと子どもたちのほうで

現実は 家出でも逃避行でもなく、

「家族で過ごした広い家を処分することを決め、車を走らせるクラリス」

だったんでした。

 

辛さを克服するために、クラリスは

「消えたのは家族ではなく、自分が消えたこと」にして

話を再構築しようとしていたから、

最初家をでるシーンから、すべて現実ではなかったことになります。

 

同じように人が倒れたり、ものが壊れたり

「現実世界」と「想像世界」がその都度リンクしたり

マルクとテレパシーで会話したり、ちょっとスピリチュアルなシーンもあったりします。

 

現実世界では、

精神不安定なクラリスは、突然倒れたり、異常行動をしたりしますが、

周囲の人たちは(それを知ってか知らずか)クラリスに優しく接します。

カフェでマルクと勘違いして話しかけられたり

シャツのボタンをあけて胸毛触られたり、

それでも怒ったりしないんですね。

市場で氷に顔をつっこんでも

「マダム!」といって、やさしく介抱してくれます。

(さすがに娘をストーカーされた親は怒っていましたけど。)

 

ある日突然、愛するものを奪われてしまった「喪失感」「絶望」・・・・

幸い私はそこまでの経験をしたことはないのですが

配偶者や子ども、大事なペットを失った人には

きっと胸にグッとくるものがあると思います。

 

最近みた映画のなかで一番近いのは
認知症のアンソニー・ホプキンス演じる父親の脳内と現実を入れ込んだ
「ファーザー」ではないでしょうか。

 

 

これもけっこう「難解」といわれていましたが、

私は当時まだ認知症の母の世話をしていた時の記憶が新しかったし

壁紙の色とか服の色とか

けっこう「手がかり」を残してくれていたように思います。

本作は(私が気づいていないだけかもしれませんが)

そういうことは、あえて排除しているような気もしました。

 

クラリスの脳内では

錯乱しながら、取り乱しながら、

記憶を断ち切って立ち直ろうとする気持ちと

いつまでも思い出のなかで彷徨いたい気持ちと・・・

 

あの山荘みたいに広い自宅には

あちこちに夫や子どもたちとの思い出が詰まっていて

ここで暮らすのも辛いし、手放すのも辛いし・・・・

それでも家の買い取り業者?を呼んで

事務的に対応しているところは、むしろこちらが泣きたくなりました。

 

混乱するクラリスを見守る

周囲のやさしさにもほろりとしました。

アドバイスしたり、間違いを訂正したりはせずに

本人が立ち直るまで

ひたすら見守るしかないんですよね。

(これって、認知症の介護にも通じるかもしれないです)

 

 

ただ、欲をいえば、ラストでもうひとつくらい展開が欲しかったな。

最初の30分くらいで、過酷な現実があきらかになり、

「答え合わせ」の部分が延々と長くて、

そのままフェードアウトしてしまった感じなので。

 

「ピースが少しずつつながっていく」というよりは

「いきなり解明して、あとはチェック作業」。

ただ、現実と妄想が同じ画面のなかでシームレスにつながっていく、

その表現方法が秀逸だな、と思いました。

 

エンドロール後にもなにかあるかな?とドキドキしてたんですが、

そのエンドロールの音楽が(思い出の曲だったみたいですが)

なんか、チャラくて嫌い!

やっぱりここはピアノ曲でしょ。

幼いリュシーが弾くたどたどしいピアノ。

あのポラロイド写真もエンドロールで丁寧に映してほしかったです。

 

そんなこんなで余韻を味わえなかったので ★ひとつ減らさせていただきました。

 


 

 

ところで、

アルゲリッチのドキュメンタリーをみたとたんに

クラリスの脳内では

「私の娘はマルタ・アルゲリッチよ」

となり、記憶のなかのリュシーが白髪になるのには驚きました。

 

クラリスが見ていたのはこれ↓

 

 

そういえば、

この時のポールの顔にも大きな星みたいなペイントがあり・・・・

 

 

シルバーメタリックの衣装を着てる場面もあったので、

私は思わずKISSのポール・スタンレーを連想してしまったんですが・・・

 

なんか違いますね、

あれ、何だったんだろう??

 

 

ところで、東急文化村がまもなく閉館するニュースが気になるんですけど

ル・シネマもこのタイミングで閉館するのか?

 

「ムヴィオラ配給で ル・シネマ単館上映」

本作も「春江水暖」もそうでしたが、

こういう間違いない作品、観られなくなったら本当に困ります!

 

これからどうなるのか、本当に気になります。

「代替施設」とも書いてあるけれど、アクセス悪くなったらイヤだな。

 

上映前の予告編でも

「文化村はオフィシャルサプライヤーのみなさまの支援を受けて

これからも上質な文化・芸術を発信していきます」

みたいな、いつものお知らせがあっただけ。

 

そろそろ具体的な告知を出してほしいな、と思います。