映画 「カモン カモン」 2022(令和4)年4月22日公開 ★★★★☆

(英語; 字幕翻訳 松浦美奈)

 




デトロイトでの取材風景。
インタビュアーはいろいろな人種や年代の子どもたちに質問を投げかけます。
「未来はどんなふうになっていると思う?」
「正しい道を進むために大人は何をすべきと思う?」
「君を幸せにするものはなに?」
子どもはそれぞれに自分なりの答えを出していきます。


部屋にかえって撮りためた録音を聞くジョニーは、ラジオジャーナリストです。
ニューヨークで一人暮らしの彼は取材旅行の最中で、

全米各地で子どもたちの声を集めていたのでした。

ジョニーはしばらく疎遠だった、ロスに住む妹のヴィヴに電話をかけると、
「9歳の息子のジェシーが ジョニーのラジオ番組を気に入ってる」といわれて
ちょっと顔をほころばせます。

ヴィヴは音楽家の夫ポールとは別居中なのですが
彼は心の病(双極性障害?)で今深刻な状況にあり、
心配だからオークランドに行ってくるというヴィヴ。
「ジェシーはどうするの?」と聞くと、これから預け先を考えるという。

「少しの間なら面倒をみるよ」とジョニーは申し出、
しばらくぶりでロスのヴィヴの家を訪れます。

「ジェシーは賢くてふうがわり。すっかりひとりの人間よ」

母親にそういわれる9歳のジェシー少年は
確かに快活でおしゃべりで元気な男の子な一方

「施設は二段ベッドで眠れないの」とか
時々「かわいそうな孤児の設定」にはいってしまったり
「樹は菌類による地下のネットワークで共存している」と熱弁したり
なかなかクセの強い、かわった子でもあります。

翌朝、ヴィヴはオークランドに出発し、

ジョニーは大音量のモーツアルトのレクイエムで

むりやり起こされます。
怒りを収めながら、仕事道具の集音マイクとレコーダーで質問すると
ジェシーは機材のほうに興味津々。

ヘッドホンをつけ、集音マイクをかざして外の自然音を聞くのに夢中になります。
街なかや浜辺へくりだし
「どの音もサイコーだ!」            (あらすじ とりあえずここまで)

 

 

「独身男がある日突然子どもの父親代わり」というのは、

もう映画の世界では、超超定番の設定。

一般的にいって、子どもが赤ちゃんだったりしたら、ドタバタコメディですが

子どもの年齢が高くなるにつれ、シリアス度が増してきます。

 

評価の高い作品だと、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」とか。

 

 

「アマンダと僕」も好きな作品です。

 

 

年齢でいうと、これがジェシーには一番近いかも(ただし、数学の天才少女ですが・・)

 

 

邦画だと、芦田愛菜ちゃんの「うさぎドロップ」もありました

 

 

 

こうやってみると、子どもは女の子のほうが多くて

そして「両親が急死したために突然自分の生活に子どもが転がり込んでくる」という設定。

本作では「一時預かり」で、母のヴィヴとは電話で連絡とりあえる環境にありますが、

それゆえの面倒くささ、というのもあるし、共感できる部分も多いです。

 

ジョニーは独身男ではありますが、仕事柄子どもの心に向き合うことが多く

ある程度は世話できる自信があったから、自分から引き受けたんでしょうね。 

(予告編では、一方的にヴィヴに押し付けられたように編集されてたけど、

元々はジョニーのほうから、自分が預かる、って申し出たんですよね)

 

さてどうなるやら・・・・

 

あらすじ つづきです(ネタバレ)

 


(回想シーン)
母が存命だったとき、認知症の母の介護はヴィヴがしていたのですが
たまにやってくる兄のジョニーが母の妄想に話をあわせているのが
ヴィヴには許せず、ふたりの間には亀裂があったようです。
「兄は溺愛してくれたママを失うけど
私は理解してくれないママを失う」

(元のシーンに戻って)
ジェシーは、疑問に思っていることを、ジョニーにストレートにぶつけます。
「なんで結婚しないの?」
「ルイーザが好きならなぜ別れたの?」
はぐらかしてもどんどん質問してくるジェシー。
「愛し合っていてもことばにするのは難しい。いつか君もわかるよ」


一方オークランドに到着したヴィヴは、ポールの状態がよくなくて、
検査につれていくだけで時間がかかり、もう2,3日ジェシーを頼めないかと言われます。


週末にはニューヨークでの仕事にもどらなければいけないジョニーでしたが
ジェシーに聞くと「いっしょに行きたい」と。
それをヴィヴに伝えると
「なんで9歳の子どもに聞く前に まず私の許可をとらないの?」と怒られてしまいます。

ニューヨークに到着したふたり
ジェシーはあいかわらず音集めに夢中です
「平凡なものを記録して不滅にするのはクールだ!」

ジョニーの仕事中、ジェシーの世話を仲間に頼むのですが
「ジェシーは、見た目も中身も『ミニジョニー』ね」

といわれます。

かかってきた電話に気を取られて一瞬目を離したすきにジェシーが姿を消したり
勝手にバスに乗り込んだり、スーパーにジェシーの歯ブラシを買いにいって
『おしゃべり歯ブラシ』を買わないといった瞬間に逃げられたり・・・

 

ママが恋しくなったジェシーをみて
もうこれはロスに戻すしかないと思ったジョニーは

航空券を買って空港に向かうのですが、そのタクシーのなかで
「ウンチがしたい。間に合わない」
タクシーを止めてダイナーでトイレを借りると
中に入ってカギをかけてしまうジェシー。

騙されたと知ったジョニーは飛行機をあきらめ、タクシーから荷物をおろします。

 

次の仕事場、ニューオリンズへやってきたジョニーとジェシー。

ここは2005年のカトリーナ台風で大きな被害を浴びた地域です。

ふたりは街のパレードに出かけますが、

そこで過労でジョニーが倒れ、居合わせた人に介抱されるということがありました。

気絶したことを恥ずかしがるジョニーをみて

ジェシーは愛おしく感じるのでした。

ジョニーの録音機材には、ジェシーが自分で録音した声も入っていました。

「思ったことは起こらず、思いもしなかったことばかりが起こる」

「未来はわからないから、先へ進む、先へ、先へ・・・(c'mon c'mon)」 

                               (あらすじ ここまで)

 

 

「ベルファスト」「パリ13区」「カモン カモン」と

ひと月ほどの間に3本もモノクロ映画をみました。

4つか5つくらいの都市を移動するのだけれど

モノクロだったからか、あまり環境の変化を意識せずに

ジェシーとジョニーの関係に焦点を絞れた気がします。

 

音楽もそんなに存在を目立たせず、ポールがオーケストラ奏者だからか、

クラシック音楽も多かったです。

大音量でかかったのはモーツアルトの「主よ憐れみたまえ(キリエ・エレイソン)」

あとは「魔笛」とか、予告編にも流れる曲は、おなじみ「月の光」(ドビュッシー)でした。

 

 


9歳の子どもって、大人が思う以上にいろんなことを感じ取っていて

ただ口に出すか出さないかはその子次第で、

ジェシーは疑問に思うことをなんでもジョニーおじさんにぶつけるから

独身のおじさんはてんやわんやになってしまいます。

ママと兄であるジョニーとの、なんかぎこちない関係とか

ジョニーは好きな人がいるのになんで結婚しないのかとか

パパの病気について聞いちゃいけない雰囲気はなんでなの?とか・・・・

「ママは昔ボーイフレンドから逃げてた時があって、

まずいことになるとかいってて、中絶したこともあるっていってた」

とか、ママが聞いたらひっくり返るようなこともジョニーに話しちゃうんですよね。

 

ジョニーは仕事柄、子どものことばを注意深く聞き取ることには慣れているんですけど

実際に「親代わり」になってみると、

もうその重責や負担に音を上げてしまいます。

 

「母親のたいへんさをはじめて知った」
「すべてを適切に解決しなければいけない仕事を

世の母親たちは、一方的におしつけられている」

 

ましてヴィヴは娘として母を介護し、妻として夫の病気のケアをし、

そして母として ジェシーを育て上げる仕事を一人で負っていて、

頭の中だけで子育てを分かっていた気になっていたジョニーはギブアップしてしまうのです。

 

ほんとに自由すぎるこどもとのいざこざって、

後になったら笑えるかもしれないけれど、

もうその場ではひたすらパニックですよね。

街なかやスーパーの店内で、(迷子になったのならともかく)

わざと消える(逃げる)とか悪質。

 

「子どもらしい不器用なやり方で訴えている」
「自分を見捨てないか

ほんとうに愛されているか、(子どもから)試されている」

 

ことばでいうのはたやすいけれど、

治安の悪いところでは一瞬が命取りになるかもしれないのに

ほんと、いい加減にしてほしいです。

 

思い返してみて、私は娘たちにそういう仕打ちをうけたことはないので、感謝しないとね。

「ふつうってなに?」

って、ジェシーも聞いていましたが、私もそういうこと、いわれた記憶があります。

「ふつうじゃなきゃダメなの?」

「ふつうってえらいの?」

 

多分私は「ふつうは〇〇だよね」とか、口癖のようによく言ってたんだと思います。

(ブログ内検索でも「フツー」を検索したら119件もヒットしました(笑))

 

「フツーじゃなくても全然いいんだけど、

まわりをみて、なにがフツーなのかはわかってたほうがいいよ」

「迷ったらとりあえずフツーにしとけばラクはラク」

みたいなことを答えたと思うんですが、伝わったか?

(ちなみに、そう聞いてきた娘は、全然フツーでなく、かなり個性的な人物に仕上がりました)

 

 

ピザ屋でジョニーに質問をして

帰ってきた言葉が心にひびかないうすっぺらだと

「Blah blah blah blah(ぺらっぺら~)」っていうシーン、

ここ、好きです。

(確か、「自分を大事にしろと言った」とか、あたりさわりのないことをいったんですよね)

 

 

長いこと生きていると、

世の中は無難なカドのたたない言葉に満ちていることに気づくけれど、

おとなになると、ぺらっぺら~!と茶化したり

ジェシーみたいに、納得するまで聞き返したりできなくなるなぁ。

 

 

 

公開前、池袋ヒューマックスシネマでは

「カモンカモンのチラシはスタッフまでお申し出ください」と書いてあって

申し出たら、3枚セットのチラシをくれました。

 

①「君の話を聞かせて」

②「大人も子供もどっちもどっち」

③「大丈夫じゃなくても、大丈夫」 

 

③は「回復ゾーンの外にいるときは暴れる時もあっても大丈夫」みたいなセリフのときに

出てきた言葉だと思ったんですが、あとの2つは出てきたっけ?

3つのことばは、選びに選んだ『渾身のコピー』なんでしょうが、

「Blah blah blah blah(ぺらっぺら~)」にも思えてしまうし・・・・

やっぱり言葉って難しい!

 

 

 

 

ジェシー役のウディ・ノーマン君は、

「エジソンズゲーム」でエジソンのカンバーバッチの息子役とありましたが、

その時はそんな記憶に残る演技というわけでもなかったんですが・・・・

 

 

今回はホアキン・フェニックスと互角に、いやそれ以上に、オスカー俳優を食っちゃってましたね。

台本なしのオールアドリブかと思うくらい自然な演技でした。

 

ホアキンは一か所くらいキレるシーンがあると思いきや、

最後までやさしいジョニーおじさんで、

だんだん、テニスコートの紳士ロジャー・フェデラーに見えてきました。

 

似てないか・・・

 

 

 

ジョニーの取材を受けた子どもたちの受け答えが、ものすごく深くて哲学的だったんですが、

YouTubeでその一部がみられたので貼っておきます。

 

 
父親が刑務所に入っている少年とか(ここではカットされたけど台風被害を受けた少年とか)
困難のなかにあって、家族を支え大人にならざるをえない子のことばの力強さはすばらしくて
泣きそうになりました。
本来、そういう状況にならないように「ケアする」のが、周りの大人や社会の義務なんでしょうが、
すくなくとも「気の毒な弱い未成年者」という括りは邪魔なんだろうなと思いました。