映画「ギフテッド」 平成29年11月14日公開 ★★★★★
(英語 字幕翻訳 伊藤武司)
めいで7歳のメアリー(マッケンナ・グレイス)と片目の猫フレッドと共に、
フロリダの小さな町で生活している独り身のフランク(クリス・エヴァンス)。
平穏に過ごしていた彼らだったが、メアリーにある天才的な能力があることが判明する。
フランクは彼女に普通の子供と同じように育ってほしいと願っていたが、
彼の母エブリンは二人を引き離してメアリーに英才教育を受けさせようとする。(シネマ・トゥデイ)
7歳のメアリは、天賦の数学の才能があり、1+1なんてやってる学校の授業がつまらなくてたまりません。
担任のボニー先生は、難しい計算をらくらくこなすメアリに驚いて、お迎えにきたフランクに聞くのですが、
「それはトラハンテンベルク法だ。俺も8歳で習得した。
でも今は計算機があればすむこと。バーでは使えるけど」とあっさり。
実はメアリの母ダイアンは稀代の数学者で、メアリを生むとすぐに自殺。
以来、ダイアンの弟のフランクが親代わりとなっていたのでした。
フランクは今は船の修理工だけれど、もともとは大学の哲学の教授。
なかなかのエリート家庭に育っていたのですね。
メアリは頭の回転が速すぎて、同世代の友だちとは話のテンポがあわず、
相棒はフレッドという片目の猫と、隣に住む、ロバータ(オクタヴィア・スペンサー)という黒人女性。
メアリにとっては楽しい日常だけれど、それではいけない!と、
フランクはメアリを学校に行かせることにしたのです。
ある日、メアリの同級生の男の子ジャスティンのジオラマを上級生が壊したことから
怒ったメアリは12歳のいじめっこを思いっきり殴ります。
この「暴行事件」とあまりの学力格差に、校長はメアリを受け入れがたいと判断。
「うちでは対応しきれない。奨学金制度もあるギフテッド校のオークス校に転校しては。」
と持ち掛けるも、フランクは断ります。
ボニーは担任と保護者の関係で、何度かフランクと会っているうちに、ふたりはちょっといい関係になっていきます。
独身のフランクは「金曜日の夜から土曜日の朝は羽目をはずす時間帯」と決めており、
夜遊びや朝帰り、女性を家に連れ込んだりしていて、その間メアリは、いつもロバータの家で過ごしていました。
ボニーを家に連れ込んだ日、たまたま家にDVDを取りに帰ったメアリと裸のボニーが遭遇してしまいます。
「この時間は家には近づかない約束だったのに、なぜ破った?」
「お前のおかげで自分には全く自由がない」
とぼやくフランクに、メアリは深く傷つきます。
メアリは先生を連れ込んだことは何とも思っていなくて、(だって、ニヤついていましたから)
それより、自分の存在がジャマだと思われていたのが悲しかったんですが、
「メアリだってピアノを買わないオレに『死ねばいい』とかいうけど、ホントに死ねばいいとは思わないだろ?」
というフランクの言い訳を受け入れて、この場は和解出来たのですが・・・・
一番の問題は、疎遠だったダイアンとフランクの母親(メアリのおばあちゃん)が突然現れ
「メアリが低水準の環境に置かれて、天賦の才能が育たないのは間違っている!」と介入してきたこと。
「プライベートを犠牲にしてでも、ギフテッド教育を受けさせるべき」、という祖母
「同年代の子どもたちと同じ環境に置くべき」、と考える叔父
ふたりともメアリのことを思ってのことなんですが、亀裂は決定的になり、裁判にまで発展する、という話です。
祖母イヴリンの言い分は
「世界を変える発見の出来る頭脳をつぶしてはいけない」
「こんな不潔で不安定な環境で、与えられた才能を生かせないなら一生後悔する」と。
一方、フランクは
「メアリには、ここで友だちを作って遊んで、幸せになってほしい」と。
姉のダイアンが、母から初恋の男の子との交際も邪魔され、最初の自殺未遂をしたこと。
学校にも行かせてもらえず、友だちもいず、数学者としては有名になったけれど、
結局(母に反抗する形で)行きずりの男との間にメアリを生み、そして自殺してしまった・・・
「ダイアンはメアリに特別な教育を受けさせることを望んでいるはずがない」と。
でもイヴリンは
「ダイアンは自分のあと一歩で解き切れなかったナビエ・ストークス問題をメアリにひきついでほしいはず」
と、譲りません。
ふたりの言い分は平行線で結局、親権をめぐる裁判となり、判決は、
「里親のところからオークス校に通い、12歳になったらメアリが自分で住む場所を決める」という折衷案。
ピアノもある瀟洒な家に住む、子ども好きの夫婦のところで、猫のフレッドといっしょに住めるのは
ベストの環境のように思えましたが、当のメアリは、
「ずっといっしょにいる」といってくれたフランクがあっさり自分を見捨てたのが悲しくてたまりません。
メアリの精神不安定を理由に面会すら断られるようになり、
ある日、フレッドが「ペットの里親募集」に出されていることを知ります。
猫アレルギーの祖母が、フランクの目の届かないところでメアリに近づいて、英才教育を受けさせていたのです。
フランクは母のところに乗り込み、ある秘密を打ち明けます。
それはダイアンはすでに「問題を解いていた」ということ。
ダイアンは生前、このことを「母の死後に公開して」と頼んでいたのでした。
ダイアンの偉業を世間に公開することの代償として、メアリを公立学校に転校させることを承諾させる・・・・
というストーリーです。
「個人の天才的な能力」はある意味、国の財産でもあり、
もしこれが違う国だったら、有無をいわせず、国家権力で介入してくるでしょうね。
その辺は、アメリカ。
(話し合いで決着しないとすぐに裁判に持ち込むのもいかにもアメリカ的ですが。)
国vs個人ではなく、両者とも「メアリのことを思っている身内の人間」というのがこの映画の大事なところ。
学校も、暴力事件をもっと問題にしてもしかたないところ、やっぱりメアリのための最善策を考えているし、
担任のボニー先生も、この扱いの難しい女の子を本当に親身に心配しています。
つまり本作は「悪役のいない作品」です。
それでも、「個人的な感情」がちらちら出てくるところが人間臭い。
祖母は、難問を解けずに死んでしまった娘にも、大学教授をやめて修理工になった息子にも、
結婚のために自分のキャリアを捨てさせられた夫にも失望して、
自分のエゴから、人生最後の望みを孫のメアリにかけていたんですね。
フランクもメアリに平凡で幸せな日常を保証してやりたいと思う一方で、
独身の自由も欲しがるところは、やっぱり生身の人間ですよね。
フランクとボニーが結婚して、ふたりでメアリを育てる、ってオチかと思ってみていたんですが・・・
それではあまりにベタですね。
ジオラマを壊した12歳を殴ったあと、メアリーは
「主張がまちがっていなくても、暴力はだめ。もうしません。」とクラスで謝罪し、
「でも、ジャスティンの動物園(ジオラマ)は誰よりも見事だった。拍手して」
そしてクラスメートみんなが笑顔になります。
なんというすばらしいスピーチ!
メアリの才能は数学だけじゃないことがわかるエピソードです。
このあと
「ジャスティンとメアリの間にあわい恋心が芽生える」
なんていうありがちな展開を予想してしまったんですが、
そうもならないところがいいよね!
ともかく、自分にふりかかる理不尽なことや周囲の不条理を一身にうけとめて、
あるときは小さな体で必死に耐え、あるときは怒りを爆発させたり、
そのメアリを演じるマッケンナ・グレイスちゃんの利発で健気な瞳に
誰もがノックアウトされてしまいますよ。
完璧な美少女なのに、前歯が(生えかわりで)抜けていたり、
難解な数式をスラスラ解いていくけど、ペンの持ち方や書き順がおかしかったり、
そんなところまでもが愛しいです。
碧眼猫のフレッドも可愛いし・・・・反則だよな~
個人的には、となりの世話好きな太めのおばちゃんが大好き。
こういう人がもっといれば、待機児童問題もなんとかなるのにね。
オクタヴィア・スペンサーは、「ドリーム」では、数学者だったから、
このおばちゃんが、いきなり黒板に難しい数式書き出しそうな気がしてなりませんでした。
タイトルの横の★の私自身の「満足度」は、、映画サイトの評価とはずいぶんかけ離れたりして
★5つでもみんなにおススメできるってわけでは、けっしてないんですが、
本作については、人を選ばず、かなりおススメできるかも。