F映画「ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画」 2021(令和3)年1月8日公開 ★★★☆☆

(英語・ヒンディー語; 字幕翻訳 出井裕子)

 

 

2010年、インドの宇宙事業の威信をかけたロケット打ち上げが失敗し、

責任者のラケーシュ(アクシャイ・クマール)とタラは閑職の火星探査プロジェクトに追いやられてしまう。

その後タラは、家事をヒントに探査機を火星に送るアイデアを発案し、

少ない予算ながらプロジェクトの始動を認められる。

チームスタッフは経験の浅い女性たちばかりで意欲も低かったが、

ラケーシュの指揮とタラがまとめた彼女たちの節約アイデアで、

低予算でも火星探査機打ち上げを成功させるべくチームは団結する。  (シネマ・トゥデイ)


 

食事の支度や家事に朝からてんてこまいの主婦のタラ。

いばりくさっている夫は何も家事をしないばかりか

娘の夜遊びや息子のイスラム教への傾倒にいらだっており

面倒はなんでも妻におしつけるサイテーな男。

優しい言葉をかけてくれるのは、車いすの義父だけ、という気の毒な状況のなか、

家事をすませたタラは家族の誰よりも早く 車にのって出勤します。

 

彼女の職場は、インド宇宙研究機関(ISRO)。

タラはここでたくさんのスタッフに指示をする、宇宙開発のチームリーダーなのです。

 

いよいよGSLVロケット打ち上げの当日。

発射直前にターボポンプの熱が上がっていることが気になりましたが

外気の温度のせいだろうと、推進系の責任者のタラはゴーサインを出します。

カウントダウンが始まり、打ち上げ・・・20秒後に第一段階の切り離し・・・・

ところが、WARNINGランプが光ったと思うと、軌道を離脱し制御不能、

ミッションは中止され、やむなく自爆モードに切り替えます。

 

責任者のラケーシュは自分のミスだと謝罪するも

失敗を嘆くのは時間の無駄、失敗で多くのことを学べるとどこまでも前向きです。

 

ところが世論は「世界の笑いものになった」

「インドの優秀な科学者はNASAに行ってしまい、インドの宇宙開発なんて税金の無駄」

と大バッシング。

 

ラケーシュはインド宇宙委員会に呼び出され、

23年間NASAにいたインド人の科学者ルパートを後任に決めたといわれてしまいます。

「NASAよりも50年は遅れている」とルパートははなからISROをバカにしていて

これからはNASAの開発した技術を取り入れるといいます。

 

そして委員会の幹部は、ラケーシュに対しては

「2022年の火星ミッションに取り組むように」というのですが、

最初から無理難題を押し付けて、自分から退職させるように仕向けているのだとわかりながらも

自分にはそれしかない、とラケーシュはこれに応じます。

 

一方、タラは自分のためにラケーシュが左遷されたことが申し訳なく、家で沈んでいました。

ある時、プーリー(揚げパン)は、充分油の温度が上がっていれば

途中で火を消してもちゃんと揚がることに気づき、ロケットにも応用できるのではないかと・・・

そしてラケーシュと一緒に幹部たちの会議に乱入して

プーリーを揚げてみせます。

こうやって燃料を節約して、さらに船体を軽量化すれば、

PSLVでも火星に到達できるはず、と。

「1日8時間では無理でも、15時間働きます。チームが必要です」

彼らの熱意に許可がおりますが、ルパートの嫌がらせで

ベテランではなく、実績のない若手スタッフばかりが配置されます。
 

ヴァルシャー(船体設計担当)・・・狭い部屋の収納も得意。 ミッション参加後に妊娠。

クリティカ(通信担当)・・・ 車の運転が苦手 負傷した軍人の恋人が心配

ネハ(自律システム担当)・・・離婚して家を探すも、ムスリムなために借りられない。

エカ(ジェット推進担当)・・・ サリーは着ず、性的に奔放。NASAに行くのが夢。

パルメーシュワル(積載担当)・・・女性と出会って結婚したい童貞科学者

アナント(l構造設計士)・・・ 59歳で早く退職して妻とのんびりしたいと思っているロートル科学者

 

研究所はボロで、ついた予算はわずか80億ルピーで、さらに40億に削られます。

(ちなみにアメリカの火星探査機メイブンは600億ルピー)

「これでは試合で奇跡をおこそうにも、試合会場への旅費すら足りない」

とラケーシュは嘆きますが、

中国がロシアのロケットで火星軌道に乗ることに失敗したのを受け

「月では先を越されたが、火星ではわれわれが勝つ!」と闘志をみなぎらせます。

「夢は寝ているときにみるものではなく、君を眠らせなくするものだ!」

「新たな歴史を40億でつくろう!」

 

ただ、プライベートにそれぞれ問題を抱えるチームのメンバーたちは仕事に没頭できません。

仕事への士気もあがらず、定時に帰ることしか考えていない彼らに

タラは、みんなに科学者になろうと思った日のことを思い出して初心に戻らせます。

「その日が新たな誕生日」

「(科学者になりたいという)夢を叶えられた私たちはラッキーなのよ」

 

アナントは環境破壊で問題になっている廃プラスチックを船体に使うことを考え

ほかにも自己修復可能な繊維の開発、スイングバイや太陽風の利用など

貧乏だからこそ、いろいろなアイデアが湧いてきます。

月ミッションのときの機器も

「夕飯の残りを朝粥にするみたいに」当然再利用。

 

発射するのは火星が地球に大接近するタイミングを外せないのですが

発射予定日はずっと悪天がつづき、ぎりぎりで天気が回復します。

2013年11月5日、PSLV-XLロケットを打ち上げ、

噴射→エンジンを切る節約モード を何回も繰り返して、

30日目、最後の噴射でヴァンアレン帯へ。

その後通信が途絶えて青ざめますが、クリティカが完成システムの電源を落とし

再起動すると、なんと復旧したばかりか、スピードも速くなって遅れを取り戻せそう。

 

そして2014年9月24日、火星に到達して軌道投入したものの

火星の裏側に入って通信が途絶えます。

予定をすぎて30分たっても沈黙のまま・・・・

しかし、30分後通信が再開し、機体も姿をあらわします。

火星の裏側の画像も送られてきました、成功です!      (あらすじ ここまで)

 

 

インドがいきなり火星探査機を打ち上げて成功したことは周知の事実なので

こんなラストが分かってる話なんて面白いか?と思う人もいるでしょうけど、

私は「はやぶさ」も競合作3本見て、全部心臓バクバクでしたから、

そんなことはないですよ~!

 

 

 

 

宇宙からの信号がとだえたときの不安な気持ちは

まさに映画「はやぶさ」の時と同じでした。

広い宇宙のなかで迷子になってしまったら探しようもなく

ミッション失敗の責任問題という以前に、手塩にかけたかわいいわが子が

行方不明になってしまったときの気持ちですよね。

 

本作の主役は女性科学者たちとそれを束ねるプロジェクトリーダーのラケーシュ。

そして、こういうノンフィクション素材には珍しく

NASA帰りのエリート科学者のルパートという完璧「悪役」が登場します。

なので、同じようなテーマの「ドリーム」と比べると、コメディ色とかドタバタ感が増しています。

 

 

 

こっちはヒロインを3人に絞って、大物女優をキャスティングして、賞もたくさんとってますからね。

NASAのメイブンとISROのマンガルほどの差はないでしょうけど、製作費にも格差はあるんでしょうね。

「ドリーム」の3人には明らかにモデルがいるのでいろいろ制約があったと思いますが

こちらは史実に基づいているとはいえ、かなり自由に脚色しているので

気軽に観られる良さはありますね。

 

ラケーシュ役のアクシャイ・クマールはインド映画の大スター。

「パッドマン」でも、愛する妻を救うために生理用パッドを自作しはじめ

大量生産ラインをつくってインド中の女性に貢献していました。

本作でも妊娠したヴァルシャーに

「産休をとってもいいし、もし働けるようなら全力でサポートする」

と女性に優しいフェミニストの立ち位置でした。

 

 

2年前にみた「パッドマン」

同じスタッフチームが作っているので、本作とかなり共通点があります。

それにしても、インドの女性たちがナプキンを使えるようになったのはごく最近のことなんですよね。

火星目指すのもいいけど、こっちが先なんじゃないの?ってちょっと思ってしまいました。

 

 

 

最近のボリウッド映画は踊らない!とよくいわれますが、本作でもダンスのシーンはちゃんとあります。

あの怒りんぼのタラの夫がダンサーを目指していたとは!(笑)

 

あと、インド映画にはおいしそうなお菓子がよく出てきますね。

 

「ライオン25年目のただいま」のジャレピー(激甘の揚げ菓子)

 

「マダム・イン・ニューヨーク」のラドゥー(豆粉の団子)

 

そして本作のプーリー(揚げパン)

 

 

ただおいしそう!というだけでなく、どれも

ストーリー展開に必須のガジェットとなっています。

 

 

中盤で「インターミッション」の文字が入るので、(もちろん休憩はありませんが)

よっぽど長い上映時間になるのかと焦ったのですが、2時間ちょっとにおさえられていました。

 

ただ、最後爽快感で気もち良く終わったのに、エンドロールがめちゃくちゃ長いんですよね。

それなりにCGとかも使ってスタッフロールが長くなるんでしょうけど

真っ黒な画面に文字だけが流れるのが延々続くのは

「最後まで観る派」の私でもうんざりです。

 

このミッションにかかわった女性たちの姿がエンドロールの前にちらっと映りましたが

あれをもっとゆっくり映してくれたらいいのに・・・・と思ってしまいました。