映画「ウィスキーと2人の花嫁」 平成30年2月17日公開 ★★★☆☆

原作本「Whisky galore -たくさんのウイスキー」 コンプトン・マッケンジー  邦訳なし

(英語 字幕翻訳 安本熙生)
 
 


第2次世界大戦の戦況悪化が原因でウイスキーの配給が止まり、

トディー島の住人たちはすっかり落ち込んでいた。

郵便局長ジョセフの長女ペギーと次女カトリーナはそれぞれ恋人と結婚したがっていたが、

周りからはウイスキーなしで結婚式はできないと激しい反発を受けてしまう。

ある日、大量の酒を積んだ貨物船が座礁し……。             (シネマ・トゥデイ)

 

スコットランドといえば、スコッチウィスキー・・・・

なんですが、それにしてもウィスキー大好きなスコットランドのある島の村人たちの話です。

 

時は1941年、

ナチスによるロンドン空爆が激しさを増す第二次世界大戦中のスコットランドのトディー島。

トディー島という島は実在しませんが、アウター・ヘブリディーズ諸島がモデルになっているようです。

場所はこちら ↓

 

 

戦況の悪化に伴い、心のよりどころだったウィスキーの配給がとまってしまい、絶望する島民たち。

お茶を飲むだけでは、誰も仕事が手につかず、民兵も弱体化、

ウィスキーなしでは結婚式もできやしません。

 

そんな折、ニューヨーク向けの大型貨物船が島の沖合のスケリードゥーという大岩にぶつかって座礁。

船員たちは救命ボートで脱出し、島民たちは救助に向かいます。

船の積み荷は、なんと5万ケースのウィスキーだというのです。

島民総出で船員を救助し、沈没前にウィスキーの一部も運び出すことに成功。

 

明らかに窃盗ですが、彼らは全員グルになってごまかすつもりです。

ワゲットという大尉(民兵を率いているものの戦争経験はないらしい)に邪魔されます。

彼は融通のきかないクソ真面目男で、この窃盗を暴いて自分の手柄にしたかったらしい。

 

とにかくウィスキーが手に入って、島民たちは元気いっぱい、勇気凛凛!

ワゲットが関税消費税庁に報告し、本土からやってきた査察官たちをドヤ顔で案内するのですが、

島民たちはさっさと酒瓶をかくし、しらをきるつもりです。

酒が売れなくなるのに腹をたてているバーのマスターに隠し場所をチクられますが、

それでもみんなのチームプレイで摘発を阻止するのです。

 

役人たちもあんまり血眼で摘発しようともしてないようで、

ウィスキーに関してはけっこう「お目こぼし」があるのかもね。

日本の「花盗人は罪にならない」みたいな感じで・・・・?

 

「2人の花嫁」のほうは、郵便局長のジョゼフが妻亡き後手塩にかけて育ててきた2人の娘のこと。

電話交換の仕事で父を手伝っていた娘たちにはそれぞれ、婚約者が。

2人そろって結婚を予定していたものの、ウィスキーがなくて式が延期になっていたのです。

ジョセフにしてみれば、娘たちを手放して、酒なしでいられるか!ってことのようです。

 

ところで、島でひとつの郵便局というのは、

電話も自由に盗聴できるし、郵便物もチェックできるし、

諜報活動はやり放題という場所なので、

ワゲットの考えていることは筒抜けで、

ワゲット差出の荷物のなかにウィスキーをいれるなんてこともできるから、

逆に彼に嫌疑をかけられるようにするのなんかも楽勝です。

彼は空気の読めない嫌なやつだけど、間違ったことはしてないのに、

なんか気の毒な結末ですが・・・・

 

「難破船から島民総出でウィスキーをちょろまかした」という、それだけの話なんですが、

酒好きな牧師や、娘離れできない郵便局長、マザコンの小学校教諭、のんびり構えてるワゲットの妻・・・

なかでも、カトリーナとの結婚をどうしても母に認めてもらえないマザコン男が

酒の力を借りて高圧的な母と対峙して、結婚を認めさせるシーンがクライマックスになっていますが

酒を飲まない私なんかにすれば、

「酒の力を借りないでやれよ!」

って思ってしまいますが・・・

 

 

ともかく、お酒が手に入って良かった,良かった!ということで。

22歳の息子を思い通りにしないと気が済まない、嫌われ者のクソババアまでもが

最後にはウィスキーを飲み干して笑顔になります。

 

戦争中で、国の役人が査察にきてるんですから、スリリングなシーンもあるんですが、

なんとなくのんびりゆったり。

難破船からウィスキーを盗み出すのも、座礁直後ではなく、

「安息日には祈り以外のことはNG」ということで、丸一日待つんですよ。

丸一日以上沈まなかったのなら、船員たち、船を捨てるの早すぎですよね!

酒よりももっと大事な積み荷もあったでしょうし、

むしろ、そういうのは運び出さなければいけなかったんじゃないの?

 

島中の伝達方法も、携帯はもちろん、ほとんどの家に電話もなかったから

ぽつんとたった島に一つの公衆電話ボックスが使われ、あとは手旗信号。

徒歩や自転車メインの移動手段も、のんびりしていて牧歌的です。

 

本作は1941年の「SSポリティシャン事件」という実話がもとになっています。

これが本になり、49年に一度映画化され、今回はそのリメイクということなので、

きっとエピソードはオリジナルなんでしょうね。

 

原作本に邦訳はなく、この事件についてのWIKIも日本語では見つからなかったので、

映画の公式サイトから、抜粋しておきます。

 

第二次世界大戦中の1941年2月、

輸出向けのウイスキーを積んでイギリスのリバプールからアメリカに向けて航行していた

SSポリティシャン号が、スコットランドのエリスケイ島の北にある狭い海峡で濃霧のため座礁し、

動けなくなってしまった。

当時、ドイツ軍のUボートが英国近海に出没しており、民間の貨物船までもがそのターゲットになっていた。

そのためSSポリティシャン号もUボートを避けるため、

リバプールからアウター・ヘブリディーズ諸島へ北上していき、

夜の闇にまぎれてミンチ海峡から大西洋へと抜けようとしていた。

ちょうどその時期はアウター・ヘブリディーズ諸島特有の冬の嵐の日で、視界が悪く、

入ってはいけないエリスケイ海峡に入ってしまったのだった。

SSポリティシャン号は大型船だったため、岩礁に乗り上げてしまった。

船は船底から浸水して傾き、船長と乗組員全員が島民によって無事救助された。

そのとき島民たちは船に大量のウイスキーが積まれていたことを知ったのだ。

船にはウイスキーだけではなくピアノやバイクの部品、

そして2千万ポンドに当たるジャマイカポンドも積まれていた。

この金額は当時のジャマイカにおける流通高を超えていた。

万が一、ヒトラーが英国に侵攻してきたら

王室をジャマイカへ避難させる計画があったのではないかとささやかれている。
 沈没寸前のSSポリティシャン号を目にした島民たちは、船長と乗組員の救助の後、

可能なかぎりのウイスキーを船から陸へ持ち出した。
やがて、ウイスキーを押収しようと関税消費庁が島へやって来ることが分かった島民たちは、

島の色々なところに慌ててウイスキーを隠した。

そのため現在でも当時のボトルが発見されることがあるという。

 

これだけ見ると、国民にはウィスキーの配給をやめておきながら、

こんな大量のウィスキーを輸出しようとしていたわけで、

どうせ沈むものをちょろまかした島民なんかより、ずっと胡散臭い感じがします。

「窃盗」ではありますが、後世の人たちも、基本温かい目で見てるんでしょうね。

 

そういえば、テアトル銀座のクロージングで観た「天使の分け前」

これも、スコットランドが前面にでた作品でしたが、

前科者の少年たちが醸造所に侵入して幻のモルトミルの樽からちょっと失敬する話でした。

醸造の過程でウィスキーが2パーセントくらい減っていくことを「天使の分け前」というのですが

映画の中では、彼らの「窃盗行為」をこんな素敵なことばでごまかしていました。

 

本作でも、5万ケースの貨物船が目の前で座礁したのは

「神様からの贈り物」とか、都合よく解釈していました。

これもあくまでも「窃盗」なんですけど、

ウィスキーを「命の水」といってる地域だったら、なんとなく許してしまう・・・

たしかに、お酒がちょっと美味しく飲めるような話ではありました。