コロナの「後遺症」のケアのやり方を模索しているうちに同じ手当法が不登校にも奏功することがわかってきた。ふつうの手技療法と違って交感神経を優位にすればブレインフォグは改善するし不登校にも有効。

 

ブレインフォグの場合は、仕事を含め日常生活が突然できなくなったのだから「どうにかしないといけない」と患者さんも考えている。その時点で拝見すれば結構早期に改善する。それはブレインフォグで何もできなくなった状態が、それまでの日常生活に対してイレギュラーであることを脳が認識しているから。

 

実は不登校もおんなじことで、「学校に行きたいけれど行けない」と苦しんでいる状態ではまだ「学校に行けない」状態がイレギュラーであることを認識している。ところが仕事に行けなければ生活に困るけれど、子供さんが学校に行けなくても生活そのものには支障はないことが大半だろう。イキモノとしての認識では「学校に行かなくても死ぬことはない」なのよ。

 

そうなるとどうしても登校しないままの状態が定着してしまいがちになる。登校しないことが日常生活になってしまうということね。

 

イキモノはみんな、変化を嫌う。今まで普通に出勤や登校できていたものができなくなってみればそれは日常生活の「変化」であるから「何とかして元の通りの生活に戻りたい」と脳は願うのよ。この時点で治療すれば改善、つまり出勤や登校ができるようになる可能性は高い。

 

ところがね、登校しないことが日常生活になるとね、脳は登校を再開することを「変化」と認識するようになるの。そうなると同じ治療をしてもうまく反応するまでに時間がかかる。保護者があっちこっちの医療機関を右往左往している間にこじれてしまうケースもこれよ。

 

なので学校に行きにくそうにしていれば、できるだけ早くケアを始めたほうがいい。不登校は自律神経を調整すれば改善できることが多い。初めは医療機関で診察を受けたほうがベター。そこで問題がなければ鍼灸でも頭蓋仙骨療法でも自律神経の調整ができるセラピストは思っているよりたくさんいる。

 

くれぐれも「学校に行かない」状態を定着させてしまわないようにね。

 

 

 

「骨盤矯正」というと仙腸関節の歪みをイメージする人が多いだろうと思う。あっちこっちで記事にしているけれどオレは個人的には仙腸関節は巷で喧伝されるほど「歪む」ことはないと思っている。骨盤矯正は腰痛の治療手段としてはものすごく有効だけれど、仙腸関節の整形外科学検査で陽性になる人ってそんなにいないもん。ていうか整形外科学検査で仙腸関節に問題がなくっても骨盤矯正の手技は有効なのよ。

 

骨盤というのは頑丈な骨(海綿骨という)が強靭な靭帯で連結されていてさらに周囲を分厚い筋肉に覆われている。手技でこの関節を動かすには相当大きな力が必要なはずで、実際オレが使っていた自然良能会の骨盤調整(創始者の五味先生は矯正ではなく調整という言葉を好まれた)では骨盤を術者の足で体重を乗せて踏んづけていた。

 

オレはいわゆる骨盤の歪みは、骨盤周辺の筋肉の過緊張により骨盤が撓んだ状態であると思っている。乾燥標本ではない「骨」というのは想像以上の可塑性があるらしい。仙腸関節を矯正することで骨盤の歪み=筋肉の過緊張が緩和されるのは、仙腸関節を動かすことによって関節部にかかるテンションが一時的にせよ解除されるからだ、と考えている。

 

ただし、骨盤で一か所だけ現実に歪むというかズレる箇所がある。恥骨結合。ここは出産時に動くから、産後に不正列が生じる可能性がある。それから後方の寛骨(腸骨)よりもずっと繊細な作りになっている。覆っている靭帯やら筋肉やらも仙腸関節部に比べるとはるかに脆弱。ただしここには内転筋が付着しているから常にテンションがかかっている。サッカー選手などでが恥骨結合に炎症を起こすことがある。ということは恥骨結合は出産時以外でも動いている可能性がある、ということね。

 

そんなわけで一般にも言われているように「骨盤は不動関節で動かない。ただし恥骨結合を除いては。」の「ただし」以降の通り恥骨結合は動くし歪む。ここが歪むことで交接痛という深刻な症状が出てくる。

 

それからね、現実に恥骨結合で骨盤が歪みを生じているわけだから腰痛その他の症状も普通に出現する。しかも筋緊張による撓みであれば仙腸関節の調整で改善するんだけれど、恥骨結合が現実に歪んでいるわけだから仙腸関節を調整して骨盤周囲の筋肉の緊張を緩めてもすぐに元に戻ってしまう。

 

こういう時は恥骨結合の矯正が必要になってくるの。と言っても直接触診することはしない。直接恥骨に触れなくても検査できる手技はあるし、患者さん自身に恥骨に触れてもらい痛みを確認することもできる。矯正だってご自身の筋力を使って行うので術者(オレのことね)は恥骨に触れることはない。

 

産後に腰痛やら交接痛やらでお困りの方、仙腸関節をいくら調整してもらっても腰痛が治らん、という方、ご相談に来られませんか。

 

 

 

継続は力なり、という言葉をせせら笑うように健康法とかセルフケアは長続きしない。患者さんにセルフケアを勧めることがある。やり方を説明して印刷したものを渡すこともある。それでも次回おいでになったときに伺ってみると「…時間がなくて(やってません)」という方がほとんどだったりする。

 

そういう人はセルフケアを何にもやっていないのかというとそんなことはなくて、YouTubeで見つけたセルフケアをやってます、みたいなことをおっしゃったりする。一応オレは専門家よ。そのオレが薦めるセルフケアを勝手に中断して、根拠の乏しい有象無象の動画の真似をする神経が理解できなかった。何考えてるんだ、アナタは。もうほとんど口に出かかったことも何度だってあるよ。

 

そんなことになる理由のひとつは「停滞期」なんだろうと思う。ギックリ腰みたいな急性の症状であれば大半はその場で改善させることができる。学校に行きにくい、みたいな症状も時間が経っていなければ割と早いこと改善できることが多い。

 

ところがウチの整骨院においでの患者さんの多くは「どこの医療機関や治療院に行っても良くならなかった」という方なのよ。主訴がなんであれその時点で発症からかなりの時間が経過してしまっている。そういう方でも施術の前後で症状の改善は感じていただけるんだけれど、どうしても停滞期があるのね。通院しているけれども症状に変化が(感じられ)ない。これ本当に治るんだろうか、みたいな気持ちになってしまいがちではある。セルフケアにしても同じで停滞期になると「こんなことしていて大丈夫なのかな」「ほかにいい治療法があるんじゃないか」と思うようになる。そういう時に自分が見つけたり、(こちらの方が圧倒的に多いんだけれど)だれか家族や友達が教えてくれたりする健康法、セルフケアがすごく良さげに見えたりするんだな、これが。

 

もう一つの理由。それは「情報量が多すぎること」。検索をかければそれこそいくらでも健康法やらセルフケアやら治療法やらは見つけられる。それはそれで結構なことではあるんだけれど、情報量が多すぎるとあっちこっちに目移りしてしまう。それは決していいことではない。「ジャムの法則」というのを知ってる?選択肢がたくさんありすぎると逆にひとつのものを選択することができない、というマーケティング用語なんだけれど、現代の健康法がまさにそれよね。いろんなものに中途半端に手を出し続けたその結果、カラダが整わなくなってしまうのよ。

 

話を単純化して説明するね。腰痛の患者さんがいたとする。腰痛の原因をあれこれセラピストが説明するのはすべてそのセラピストの「診たて」であってこれはあくまでも主観。一人の腰痛患者さんをどう評価してどう治療するか、というのは医師を含めて一人一人の臨床家の言ってみれば哲学であってそれは残念なことに真理ではない。腰痛の原因だって「背骨のズレ」「骨盤のゆがみ」「自律神経のアンバランス」「気の流れの乱れ」「股関節の角度異常」、といろんな診たてがあって、それぞれの治療法がそれなりに成果を上げているわけでしょう。(治す技術もないのに患部をちんたら揉む、というのもあるけれど)少なくとも医療の世界に「真理」と呼べるような普遍性のある診たては存在しない。

 

腰痛の原因は骨盤のゆがみ、と考えて施術をするということはそういう考えで患者さんの身体を整えていくということ。その時に「自律神経が乱れている」とか言ってけったいなエクササイズを始められるとカラダは混乱する。自律神経を調整しても腰痛は治るだろうけれど「骨盤」を軸にして身体を整えていくうえで、それが有利に働くとは考えにくいよね。

 

船頭多くして、とは言うけれどまさにそれ。単独であればちゃんと身体が整って腰痛が治ったかもしれないものを無駄に多い他の情報が邪魔しているの。そういう意味ではひとつの哲学(治療法)に沿って身体を整える、ということが難しい時代なのかもしれないね。

 

どんな治療法でもお困りの症状が改善するまでにはある程度の時間が必要になる。しんどい思いをしている方からすれば悠長に聞こえるかもしれないけれど、これ、と決めた治療法を信じて続けることが回復への早道なのだと思うよ、オレは。