低迷を続ける正規雇用の求人倍率。もはや企業利益と雇用環境は連動しなくなった!
以前の記事 で厚生労働省が公開している
ハローワークの長期の求人及び求職状況をご紹介しました。
しかし、元々の統計が大雑把な雇用形態(パートタイマーを除く求人とパートタイマー)に
分けてある物であるため、非常に内容が時代遅れで今日の複雑化、多様化する
雇用環境にマッチしないと言う不満が残ってしまいました。
その後、もう少し雇用形態について詳細に分けた統計がないかと探してみたところ
厚生労働省 が月次で公表している一般職業紹介状況 という統計を見つける事が出来ました。
この統計も正直、十分納得のいくものではありませんが
前回の記事で使用した統計よりも今日の雇用環境にあった
ハローワークの求人、求職状況が公開されているので
よりベターな資料としてあらためてご紹介させていただきます。
(余談ですが、月次のデータを1月、1月抜き出してまとめるのはかなり骨が折れました。)
上記の二つのグラフはここ2005~2006年とここ2年間の
有効求人倍率と求職者数、求人者数を月次でグラフにしたものです。
尚、以前ご紹介したグラフ でも同じ様な内容の物が存在しますが
以前のグラフは年次でかつデータ範囲が1963~2006年までだったので追加、補完的なグラフにもなっています。
グラフを見ると求人倍率が毎年、春先の4月頃になると落ち込んで年末にかけて
緩やかに上昇していく様子が傾向としてはっきりと現れています。
ハローワークでは年初から春先にかけて求職者が増加するため求人倍率が低下するようです。
このグラフを見る限り、春先、4月頃にハローワークで職探しをしても微々たる物かもしれませんが
競争率が他の季節に比べて高く、厳しいようです。
年初から春先にかけては職を探されている方はライバルが増えるようですね。
もっともこれはハローワークでの求人、求職状況がどうであったか
あくまで比較的短い期間のデータにすぎないわけですが
それでも、ここ2年間の求人、求職の傾向について
細かい雇用形態に拘らなければある程度は把握できます。
しかし、このグラフだけではやはり不満です。
今日の複雑化、多様化した雇用形態を考えるとやはり最低限でも
正規雇用や非正規雇用といった雇用形態別に分けた求職、求人状況が知りたくなります。
(非正規についてはこのブログのメインテーマでもありますからは断じて、はずすわけには参りません。)
そこで早速、次のグラフをご紹介させて頂きます。
上記の2つのグラフは2005~2006年の2年間のハローワークでの
正規雇用の求人倍率と求職者数、求人者数の月次の推移です。
(残念ながらというか、やっぱりというか正規に関する数値はさかのぼる事、約2年分しか公開されていません。)
以前の記事 中でパートタイマーを除く求人倍率 やパートタイマーの求人倍率 のグラフ等で
雇用形態別に分ければ、正規の求人倍率は低い傾向にあると、ある程度は漠然と解かっていた事ですが
ここで、あらためて正規雇用の求人倍率を見てみると、やはり低水準にある事が解かります。
政府にいくら、いざなぎ景気を超える戦後最長の景気回復と言われ、
バブル期を超える企業利益水準と言われても
正規雇用の求人倍率は全ての雇用形態を総合した求人倍率に比べればかなり低く
年間を通して季節で起伏はあるもののでも、ほとんど横ばいで約0.6倍前後で低迷しています。
ハローワークで正規雇用を求める人の3人のうち2人までしか正規雇用に挑戦できる機会はありません。
なまじ機会があったとしても採用されるかどうかは全く別次元のお話と言う事です。
しかし、0.6倍という数値は偶然にも今日の全雇用者に占める非正規比率である約1/3を
裏返したような数値になっています。全くの偶然なのか、なにか関連性があるのかもしれませんね。
この正社員の求人倍率は一般に正規雇用の求人倍率として公表されるものです。
(実際はご紹介している実数値ではなく季節要因の調整後の季節調整値がメインになります。)
しかし、実は厚生労働省の説明によればこの正社員求人倍率は
正規の求人倍率=正社員求人数÷パートを除く常用求職数
で算出されているため正社員求人倍率といっても分母のパートを除く常用求職者数に
常用の非正規求職者数が混在している可能性があり、上記の式の分母が縮小するため
厳密な意味での正社員求人倍率よりも低めな数値になるだろうと解説されています。
(なぜハローワークが正社員求職者数を調べないのかは不明です。)
しかし、私はこの厚生労働省の解説はいささか疑問に思います。
常用の非正規ならわざわざハローワークに求職しにいかなくても
インターネットの求人募集や近くのコンビニで求人雑誌を買えば
安い労働力を求める今日の雇用環境なら、いくらでも民間でその様な職は見つかるはずです。
やはり、ハローワークをわざわざ利用して常用雇用を求める人は常識的に
ほとんどが正規雇用を希望していると考えるのが普通だと思います。
上記2つのグラフは私が厚生労働省の統計数値から独自に算出した非正規雇用の求人倍率です。
ちょうど正規雇用の求人倍率の算出式を裏返したような以下の式で算出しています。
非正規の求人倍率=(全求人-正社員求人)÷(全求職-パートを除く常用求職)
↓
非正規の求人倍率=非正規求人÷パートを除く常用求職以外の(非正規)求職
前述の厚生労働省の解説が正しいならパートを除く常用求職にも非正規の求職者が含まれている事になり
その分を差し引けば分母が大きくなりますので、この非正規求人倍率は、高めになっている事になります。
算出方法はこれで問題ないと思いますのでグラフの内容の方へ目を向けると
非正規雇用は求職に比べて圧倒的な求人があり、有効求人倍率も2倍を余裕で超え
ハローワークの求人の大部分が非正規雇用である事が一目瞭然でご理解いただけると思います。
厚生労働省
の一般職業紹介状況から算出した非正規雇用の求人倍率は
以前のパートタイマー有効求人倍率のグラフ よりも明らかに高い水準で推移しています。
残念ながら、同年代の比較対象になるデータが2005年だけしか無いので
近年、急激に求人倍率が上昇したのか?
もともと、高い水準で推移していたのかは詳しくはわかりませんが
2002年後ごろからのパートタイマー以外の非正規雇用者数の急激な増加 と言う
要因もありましたので現在は、こちらのグラフの方がより正確に非正規雇用の求人、求職状況を
現しているグラフであると言えるでしょう。
厚生労働省の一般職業紹介状況から見ても言える事は
景気が回復しても今日の雇用環境は非正規が中心の質が悪いままであり
正規の求人は以前として、低迷を続けています。
近年の有効求人倍率1倍の回復の実態は様々に多様化した雇用形態を組み合わせた
数字合わせの結果にすぎず、もはや完全失業率に続いて、
有効求人倍率も雇用環境の実態を表さない既に形骸化した数値になったと言わざるを得ません。
出典
平成17~18年の各月の24ヶ月分の一般職業紹介状況
第1表 一般職業紹介状況(新規学卒者を除きパートタイムを含む)の数値
第2表 雇用形態別常用職業紹介状況(新規学卒者を除く) の数値
補足記事 その3(もはや隠し切れない雇用環境の悪化と実感の無き景気回復の関係)
「史上空前の利益を上げる企業、雇用環境の悪化と実感なき景気回復の関係を探る。」
の記事、後半部分で総務省統計局、労働力調査と
財務省、法人企業統計による企業の損益の関係を照らし合わせて
雇用の質の悪化と企業の期間損益の関係を解説させていただきましたが
後から見て非常にややこしくなっていると感じましたので
あらためて前述の両者を合成したグラフを作成いたしました。
補足資料として追加させていただきます。
・全雇用者数と一人当たりの年間平均従業員給与の推移を合成したグラフ。
1997年以降、全雇用者数は約5000万人で推移しておりますので、一般に言われるバブル後の清算である
設備、債務、雇用の過剰の整理のうち最後の雇用の過剰とは正規雇用の過剰を現す事だと言う事でしょう。
・正規・非正規雇用者数と一人当たりの年間平均従業員給与の推移を合成したグラフ。
一人当たりの年間平均従業員給与は正規雇用の増減に連動しているようです。
・正規・非正規雇用者数と一人当たりの年間平均役員給与の推移を合成したグラフ。
役員給与も従業員給与と同じく1997年以降、右肩下がりに見えますが2004年はなぜか上昇しています。
・正規・非正規雇用者数と一人当たりの年間平均役員賞与の推移を合成したグラフ。
役員賞与は利益の処分として役員に支払われる性格の報酬です。
企業利益の回復と共に2001年~2005年までに約2.5倍に急上昇しています。
・正規・非正規雇用者数と一人当たりの年間平均福利厚生費の推移を合成したグラフ。
福利厚生費も基本的に1997年以降は右肩下がりですが、部分的に2000~2002年にかけて上昇しています。
退職金給与引当金の引き当てがなされたのではないかと正規雇用の減少傾向から推測できますが
詳細は不明です。
・正規・非正規雇用者数と年間株主配当金総額の推移を合成したグラフ。
株主配当総額は2001年~2005年にかけて約4倍と急激な上昇傾向です。
以前の一人当たりの平均従業員給与を1997年ベースで算出した場合と実際支払われた賃金の
差額賃金を算出したグラフ と近年現れた新たな非正規雇用の増加傾向の変化のグラフ と合わせて
参照していただけると非常に興味深いと思います。
・正規・非正規雇用者数と企業の期間損益の推移を合成したグラフ。
1986~1991年のバブル景気では正規と非正規が同じ程度の比率を保って増加しているのに対して
2001~2005年にかけての緩やかな景気回復では正規が減少し、非正規が増加する中で
企業の利益が増加すると言う雇用の面から見れば全く違った内容であることがわかります。
以前の一人当たりの平均従業員給与を1997年ベースで算出した場合と実際支払われた賃金の
差額賃金を算出したグラフ と近年現れた新たな非正規雇用の増加傾向の変化のグラフ と合わせて
参照していただけると非常に興味深いと思います。
出展
平成18年度の労働経済白書 (第1節 雇用・失業の動向 P24)の表の数値
補足記事 その2(潜在的失業率に関しての総務省統計局の胡散臭い公式見解)
増加する非正規雇用のしわ寄せはどこへ?実感からかけ離れていく形骸化した完全失業率
の記事の中で完全失業率とは別途に非労働力人口中の就業希望者を失業者に加えた
いわゆる潜在失業率についてご紹介させていただきましたが
実は総務省統計局 の労働力調査に関するQ&A の中で同じように
潜在的失業率の事を扱ったQ&Aが存在します。
このQ&Aの中で潜在的失業者についての総務省統計局の独自の見解が述べられていますが
はっきり言って言語明瞭意味不明です。
総務省統計局の説明を簡単に要約すると
非労働力人口中の就業希望者が景気のいい時期に存在していて
そうした人たちのほぼ半数が女性で希望職種がアルバイト・パートであれば
それは潜在的な労働力であり
潜在的な失業者となりうるのは経済情勢によって就業を諦めている人達だと力説しています。
なんなんでしょうか?全く解説にもなっていません。
景気のいい時期だから非労働力人口中に就業希望者がいれば
その人たちは就業希望者なのに働く気がないとでも言いたいわけでしょうか?
それとも非労働力人口中の半数が女性であって希望者職種がアルバイト・パートで
あった場合、就業を希望していても働く気がないとでも言いたいのでしょうか?
それとも経済的情勢による雇用環境のせい以外で就業できない人は
就業希望者であっても働く気がないとでも言いたいわけでしょうか?
潜在的労働力なら就業希望者であっても
働く気がないとでも言いたいわけでしょうか?
言いたい事はわかりますが、全く意味不明です。(言語明瞭意味不明)
だいたい公式な場で憶測とも思われる回答を公式にするのはやめていただきたいですね。
せっかくの統計が台無しです。なんだか見事なお役所答弁に腹が立ってきましたので
補足記事として追加させていただきました。
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Q&Aより引用
この就業を希望しながら就業していない者(就業希望者)全体を
潜在的な失業者とする考え方もありますが,景気の良いときにも相当数存在していたことや,
現在そうした者のほぼ半数は女性でパート・アルバイトの仕事を希望する者であることを考慮すると,
潜在的な失業というよりもむしろ潜在的な労働力とした方が適切とも考えられます。
ただし,就業希望者で非求職理由が「適当な仕事がありそうにない」のうち
「今の景気や季節では仕事がありそうにない」とする者が,
経済情勢と関係した潜在的な失業者とも考えられます。
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出展