史上空前の利益を上げる企業、雇用環境の悪化と実感なき景気回復の関係を探る。 | インターネット非正規雇用労働者組合

史上空前の利益を上げる企業、雇用環境の悪化と実感なき景気回復の関係を探る。




上記グラフは 財務省HP法人企業統計 (年次別調査)から作成した1960年~2005年までの長期の

民間企業の年度ごとの各期間損益(営業、経常、税引前純益、純益)をグラフにしたものです。


現在の緩やかな景気回復の中で大きく取り上げられている事の一つに

企業の純利益がバブル期を超えたという事が各種メディアを通じて大きく報じられているので

ご存知の方も多いのではないでしょうか?

しかし、はっきりいってそんな事全く実感がありませんというのが正直な感想だとは思います。

かく言う私も全く、全然、これぽっちもそんな実感はございません。


これまでの調査では非正規雇用を中心に雇用者の視点から雇用環境の問題を取り上げてまいりましたが

今回は視点を変えて企業の財務活動の面から今日の雇用環境の実態を探って行きたいと思います。

少しでも、この全く実感のない不気味な景気回復の謎を暴く事が出来ればと思います。


上記の企業の損益の推移グラフを見ていると大きな特徴が2点程目に付きます。

一つは経常損益と税引前当期純利益が1990年まではほとんど重なるように推移していたのに

1990年以後は徐々に経常損益と税引前当期純利益は乖離し始め2000年ごろから

経常利益は営業利益と重なるように推移し、やがて2005年には営業利益をも上抜いていきます。

そして、もう一つはバブル期の利益を越えたという2005年現在

ただ一つ営業利益のみが1990年のピークを抜いていない事です。


経常利益と営業利益が同じ水準になり、さらに経常利益が営業利益を追い抜いて

行くと言うのは大雑把に言えば債務の返済など企業の財務面の改善を現していると思いますが

驚いたのは企業の純利益水準をバブル期を超えるほどに押し上げているのが

主たる本業の結果である営業利益ではなく

企業の財務改善を反映していると思われる経常利益ベースであった事です。

こんなことは1960年からの過去の40年超の長期の推移を見ても、ごく最近だけの現象です。

(2003年度から時価会計制度が導入されたのでその影響があるのかもしれません。)

これは、今回の緩やかな景気回復の特徴の一つなのでしょう。

企業がかなり倹約体質になっているというどころか

企業が財務面からの財テクで利益を出しています。


企業が今回の緩やかな景気回復でバブル期を超える利益をどのように出しているのか

おおまかななイメージはつかめました。なるほどたしかに利益は出ているようです。

しかし、雇用者が景気の実感を感じるためには

企業がいくら膨大な利益をだしても直接は関係ありません。

企業の利益は株式を購入して配当金でも受け取らない限り

直接雇用者の所得にはなり得ないからです。

直接実感するためには併せて雇用者の所得となる従業員給与も増えなければなりません。

下記の2つのグラフは雇用者が景気の良さを実感するための企業からの分配

つまり所得となる従業員給与の1960年からの長期推移を調べたものです。



   


上記、(左側)のグラフは従業員の給与と企業の主たる活動により得られる営業利益との関係を表したグラフです。

グラフの中で注目していただきたいのが1990年に営業利益がグラフ中で49兆6624億円とピークに達しているのに

1990年の従業員給与は12兆2100億と1990年代の従業員給与のピークの水準である140兆円台に達していない所です。

従業員給与はバブル期の好況が終焉した後も1990年代前半から後半にかけて伸び続け140兆円台に達しており

1990年代後半、再び140兆円台を割り込むものの昨今の景気回復を受けて再び140兆円台を突破しています。

1990年代を通じて今日の緩やかな景気回復に至るまで企業は

1990年のバブル期の営業利益のピークの頃の120兆円を遙にしのぐ従業員給与を支払い続けています。

はたして、雇用者が全く実感がない景気回復というのは我々の単なる錯覚に過ぎないのでしょうか?


上記(右側)のグラフは従業員給与額を期中の平均従業員数で除したグラフの推移です。

このグラフを見る限り景気回復の実感がないのはやはり錯覚ではありませんでした。

その証拠に一人当たりの平均従業員給与額で見れば全く違う世界が見えてきます。

一人当たりの平均従業員給与額は1990年から1997年までは右肩上がりですが

1998年以後は右肩下がりになっていき、2005年には1990年の水準すらも割り込んでいきます。


ここで前回の記事全雇用者数の推移のグラフ を思い出してください。

1990年に約4000万人超だった全雇用者数は

正規雇用の比率非正規雇用の比率 がほぼ横ばい傾向のまま、

1997年にはピークの水準である約5000万人前後に達します。

そして、1997年を境に全雇用者数に占める正規雇用者数が減少を始める一方で

非正規雇用者数のみが増加し続け、全雇用者に占める非正規雇用の比率 が上昇していきます。


この前回の記事 の雇用者の推移の各グラフと法人企業統計からの算出による

一人当たりの平均従業員給与額の1990年代の推移の一致は偶然にしては出来すぎています。

明らかに1997年以降、企業は正規雇用を減らして、

その替わりに安価な労働力として非正規雇用を活用 し、必要な従業員数を確保しながら

一人当たりの平均従業員給与を削減しています。


これはもう、雇用環境の質の悪化による人件費削減効果により

バブル期に匹敵する史上空前の利益を企業が

上げているのが緩やかな景気回復の正体としか言えません。


下記グラフは2007年の一人当たりの平均従業員給与額で各年度の従業員給与額を算出し

実際に各年度に支払われた従業員給与額との差額を求めたものです。

1997年から始まった人件費の削減による利益の増加は

2002年から更に急上昇を始め、2005年には人件費削減効果は16兆円3257億円にも達しています。

この2002年からの急激な人件費削減による利益増加傾向は

前回の記事近年現れた不気味で新しい非正規雇用の増加傾向の出現した時期 とほぼ一致しています。

これも、偶然にしては出来すぎています。




出展

 財務省HP法人企業統計 (年次別調査:時系列データ )より検索した各種数値。