今年1月に公開された話題のロードムービーが飯田橋ギンレイホールで上映されていたので、早速行ってきた。
公式HPHPより
<紹介>
アカデミー賞に4度ノミネートされ、『クィーン』で主演女優賞を獲得したヘレン・ミレンと、本年度のアカデミー賞名誉賞に輝いたドナルド・サザーランドという、演技の生きるバイブルの二人の共演が実現。監督は、『人間の値打ち』や『歓びのトスカーナ』でイタリア・アカデミー賞作品賞を続けて受賞した稀代の名匠パオロ・ヴィルズィ。
そろそろ人生のゴールへのカウントダウンに入った70代の夫婦が、最後の瞬間から目を背けることなく、生きることを味わい尽くそうとする姿を、溢れるほどのユーモアと尽きることのない希望で描き、ヴェネチア国際映画祭に続き、トロント国際映画祭でも熱い称賛を浴びた話題作。「自由とは、失うものが何もないってこと――」そんなメッセージに溢れた、観る者の人生観をも覆す力強い一本が、いよいよ日本でも陽気なセンセーションを巻き起こす!
<ストーリー>
アメリカを縦断するルート1号線で目指すはヘミングウェイの家!50年連れ添った夫と妻がたどる人生の軌跡・・・。
夫婦生活はや半世紀、アルツハイマーが進行してきた元文学教師のジョンと、全身に散らばったガンがいよいよ暴れだしそうな妻エラ。子供たちは巣立ち、70歳を超え人生の旅にも終わりが見えてきた今、夫婦水入らずで心残りを遂げる旅に出るときが来た。病院や施設なんて真っ平ごめん。ジャニス・ジョプリンにキャロル・キング。ご機嫌な音楽と共に愛用してきたキャンピングカーに乗り、毎晩思い出の8ミリでこれまでの人生を追懐しながら、ジョンが敬愛するヘミングウェイの家があるフロリダ・キーウェストを目指す。道中、ジョンの小さな記憶の混乱がきっかけで、今までごまかしてきたふたりの問題に向き合ってみたり、墓場までもっていくはずだったかつての隠し事がつまびらかになったり、どうしようもなく惹かれあったあの頃の衝動が蘇ったり…。二人で歩んできた道を、再び歩きなおす旅はやがて―。
******** 引用終わり
2016年6月 マサチューセッツ州ウェルズリー。長男のウィルが実家に両親を迎えに行くと、家はもぬけのからでした。「今朝エンジンをふかす音がした」と隣の家のリリアン。
なんとガレージの中のキャンピングカーと老夫婦が、一緒に姿を消していたのでした。
父のジョンはアルツハイマー病。母のエラは末期がんで入院する予定、永年放置していた大型キャンピングカー、「レジャー・シーカー」( 原題はTHE LEISURE SEEKER で、ウィネバゴ社のキャンピングカー 70年代製) 邦題名より内容を表していると思うが )は整備不良で、しかも、それを認知症の父が運転するなんて!ウィルは心配でなりません。
老夫婦のドライブは、途中、様々なドタバタを起こしていく。夫のジョンはヘミングウェイを語りだすと止まらない、時には妻の初恋の相手の話にたどり着き銃をもちだし怒りだす、かと思うと妻を置いたまま発車させてしまう。エラがサプライズとして用意したスライド写真をみながら来し方を振り返ろうとするが、息子や娘がわからなかったり、時に妻のエラを認識できなくてつい昔の記憶で隣家のリリアンとの浮気話を暴露することになり、妻エラは心底怒りだし「あれは痴呆ではない単なる詐欺師だった」と娘に電話する始末。ジョンを近くの「陳腐な老人ホーム」連れて行き、置き去りにしてしまう。痴呆が始まった老夫婦のすれ違いやドタバタ劇は、少しの「盛り」はあっても高齢夫婦にはあるある話で高齢者が多い観客も笑いが広がる。
アメリカを縦断する途中にはアメリカ大統領選挙戦にぶつかり、民主党員だというジョンまでが、トランプ陣営(らしき)の集会に紛れ込み「アメリカを今一度偉大な国に」などと叫ぶシーンや、パンクでロードサービスを待っている間に親切そうに寄ってきた若者が強盗であったなど、やや現代アメリカの一面も皮肉的に登場してくる。そして、キーウエストに到着するが、ヘミングウエィの家は二人が想像していた場所ではなく派手で騒々しい観光地化していた。そのなかで、エラが倒れ救急車で病院に入れられる。生きていることすら信じられない状態と医師から告げられるが、夫婦して病院を抜け出し、キャンピングカーまで戻る。そして、エラは、かねてより準備していたと思われることに取り掛かる。(ネタバレ防止)
そして息子と娘への手紙が残され紹介しながら、二人の葬式のシーンが俯瞰で流れていく・・・・。
何より老夫婦自体が70年代の強きよき時代を生きてきたものとして、かつて夫婦と家庭に大きな喜びをもたらした旧式のキャンピングカーで好きな音楽を聴きながらアメリカ縦断の旅にでているというシチュエーションそのものがイタリア人監督だからこその客観的で冷静なアメリカが描かれているともいえるかも知れない。
深刻で重い終活劇ではないものにも、窓口を広げておいた方が、個々人の考えにもプラスの影響を与えてくれるものだと思う。
*認知症が進行している人の運転という点では、とっさの動作では無事であったが、車内の夫婦の揉め事で反対車線に出るという事でパトカーに追われて厳重注意ということで解放されるというシーンがあった。この点に日本の観客の一部にレビューの論点があったが、そこではないでしょと思った。
*LEISURE SEEKERというキャンピングカーは70年代のそれなので、日本でいえば小型バス並み広さなのでが、横幅もそれなりにあるせいか、アメリカの1号線や地方道路も、意外に道路幅が狭いものだったり、片側一車線も多い、これまでのアメリカ映画の高速道路を縦横に走り回るというイメージとは程遠く、生活感に溢れたロードムービーという点もちょっとした発見という気もした。