高橋克彦「炎立つ」 五巻を読む | 昼は会計、夜は「お会計!」

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高橋克彦氏の「火怨 北の燿星アテルイ 上・下」の時代はアテルイを中心におおよそ20年朝廷とたたかい、坂上田村麻呂によって平定されたのが延暦20(801)年。その後、蝦夷による散発的な反乱はあったが、朝廷の支配はその後の平将門の乱をも平定し安定したかに見えた。しかし、平将門の乱以来、急速に力を蓄え始めた平氏や源氏を筆頭とする武士団だった。
 「陸奥はしばし忘れられていたが、だんだんくすぶり続けていた肺の中に巨大な火種が成長していたのである」。坂上田村麻呂の蝦夷平定からはおおよそ200年近い年月が経っていた。「灰から頭をもたげた火種は陸奥の風に煽られた大きな炎を天に吹きあげた。まだその炎は遠い朝廷にまでは届かない。炎はますます勢いを増した。陸奥はその輝きに照らされた。
 安倍頼良。
それが炎の中心に立つ男である。この男が燃やした炎が、これから先、百三十年の永きにわたって陸奥を光の国とした。」(壱 北の埋み火 プロローグより)

ともかく、五巻は長い。しかし、アテルイら蝦夷のたたかいの歴史から入ったものにとって、その後に来る安倍、藤原の時代を描く本書は当然欠かせない本だ。五巻の概略Wikipediaで紹介する。

炎立つ』(ほむらたつ)は、高橋克彦んp長編歴史小説。前九年の役、後三年の役、奥州藤原氏の滅亡などが描かれている。1992年12月から1994年5月にかけて、日本放送協会出版協会から単行本全5巻が刊行された。のち、1995年に講談社文庫版が刊行された。
<概要>

1993年のNHK大河ドラマ『炎立つ』 の制作にあたって、その原作小説として新たに書き下ろされた。しかし、高橋の執筆の遅れもあり、3部構成とされた大河ドラマの第一部(巻の壱から参に相 当)、第二部(巻の四に相当)では「原作」とクレジットされたものの、第三部(巻の伍に相当)では「原案」として扱われ、内容もそれまでより相違が目立っている。また、単行本の最終巻(巻の伍)は大河ドラマの放送終了後に刊行された。

物語の舞台は、平安時代の東北地方。蝦夷と朝廷の対立を軸にストーリーが展開される。本作以前にはミステリー作家として名を上げてきた高橋の独自の歴史的解釈も交え、主に蝦夷側の視点に立って描かれている。

その後上梓された『火怨』『天を衝く』とあわせて、高橋克彦の「陸奥三部作」と呼ばれ

巻の壱 北の埋み火  前九年の役に至るまでの安倍氏と朝廷側の動き
巻の弐 燃える北天  前九年の役
巻の参 空への炎  前九年の役
巻の四 冥き稲妻  後三年の役
巻の伍 光彩楽土  奥州藤原氏の栄華と滅亡

 ******* 引用終わり 以下、各巻の文庫本表紙とBookDataでの紹介

○壱 北の埋み火 陸奥の豪族安倍頼良(よりよし)の館では息子貞任(さだとう)の婚儀が盛大に始まった。平将門の乱が平定されてすでに100年を越え朝廷は蝦夷(えみし) たちを俘囚(ふしゅう)と悔るばかりだった。招かれた陸奥守・藤原登任(ふじわらのなりとう)に仕える亘理権太夫・藤原経清(ふじわらのつねきよ)は作者が、この物語の軸にしようとした男である。この巻では、経清を描きながら、多賀城・朝廷側の内部事情を描き、陸奥の俘囚長・頼良側を支える安倍家の面々、頼良の娘・菜香と結婚した伊具の郡司・平永衡(たいらのながひら)が描かれ、官吏の一員として経清と永衡は無能な登任の下での不条理などを語るなかで武士の道に生きること、いざとなったら安倍側に味方することで朝廷側からの離脱をも含めていた。そのうち登任が自らの権益を守るために蝦夷側に仕掛け、後にいう前九年の役が始まるところとなる。

○弐 萌える北天 黄金の輝きが招いた戦乱を制した安倍頼良・貞任父子だが朝廷は源氏の総帥源頼義を陸奥守(むつのかみ)として任命した。安倍一族と源氏の永い宿命の戦いが いま始まる。朝廷側に身を置きながらも、蝦夷たちの真実に触れ、藤原経清(つねきよ)はもののふの心を揺さぶられる。後に「前9年の役」と歴史に記される 戦いへと時は流れる。

○参 空への炎 前九年の役 大敗を喫した源頼義・義家は謀議を尽くして巻き返しをはかる。安倍一族の内紛、出羽清原氏の参戦で安倍貞任・藤原経清の苦闘がつづく。陸奥の運命を担う2 人の男は大きな炎となって空を染めようとしていた。源氏と安倍氏の存亡をかけた凄絶な戦いが、戦さ場に生きる人々の愛と哀しみをたたえながら始まる。

○四 冥き稲妻 後三年の役 仇の子となり奥州藤原氏の栄華を開いた忍ぶ男の戦い。安倍が滅び、出羽の清原一族が治めることとなった奥六郡に藤原経清の妻結有は忘れ形見の清丸とともに 留まっていた。清原の嫡子武貞の妻としてである。亡き兄と夫の志を胸に秘め敵方の一族として忍従の戦いを続ける母子の前に源義家が陸奥守として現われる。 清原一族の確執が「後3年の役」の嵐を呼び起こす。

○伍 光彩楽土 奥州藤原氏の栄華と滅亡 朝廷に背き、蝦夷(えみし)の側に身を投じて戦った父藤原経清、叔父平永衡の名を継いだ清衡は源義家の力を借りて乱を治め、藤原に姓を改めて平泉に黄金の 都を築いた。堂塔を建て勅使を迎えて栄華を誇る孫の秀衡の許に源氏との宿縁が3たび影を落とす。壮大なスケールで描く、傑作歴史小説ついに完結!

******** Book Data の紹介終了
長い、長~い 歴史小説です。できることなら、「火焔 北の燿星 アテルイ」上・下 から読むことで蝦夷と蔑まれてきた東北に暮らす人たちの歴史と朝廷との戦いを現実に生きた人々とフィクションと思われる人たち、いずれも一人ひとりの人物像とともに時の流れを史実とドラマが織りなす叙事詩が本当に壮大だ。
 「火焔」の時代からみても数百年間、蝦夷たちは朝廷側と戦い、その後、源氏という時代とともに勃興してきた武士たちとたたかい、奥州藤原の時代の終焉まで続く。その後も、武士の最高位が「征夷大将軍」という制度は江戸時代まで続く。つまり、日本の近代化まで長きにわたって差別されあるいは蔑まれてきたという歴史でもある。古代にさかのぼっても、地方部族を同様に蔑まれた中には、熊襲、隼人などあったが、朝廷側の律令制度などに組み込まれることを了としてきて、中央集権的国家に従属することを拒否して生きてきた歴史としては、蝦夷、アイヌ、琉球などしかないが、なかでも組織的戦闘部隊を作り大規模な戦いをしてきたのはこの蝦夷を置いてはなかろう。
 この本を通じても、蝦夷の側は京の都まで攻め入るつもりもないし、蝦夷の側から手出しをした戦はなかったといわれている。都や畿内からみたら大変偏狭な地域だというだけで、人間として扱ったもらえないが、ただ、自分たちのことを放っておいてほしかった。自分たちの暮らしを自分たちで守っていこうとしただけだった。
 アテルイの時代から200年後の前九年の役、後三年の役というのは、蝦夷をまとめていた安倍、清原らが築いた社会がさらに奥州藤原家と平泉の興隆は、辺境の地ということを考えても東北の蝦夷たち社会が築いてきた社会観、政治力、生産力などがかなり優れていたことを証明しているようにも思える。この五巻の終盤に源氏の台頭が出てくるが、源頼朝は、律令制度の崩壊をさせた後、武士社会になったとしてもどのような国づくりをしたらいいのか、そのヒントが陸奥にあると読んで多数の間者を送り込んでいたという説をとっている。世の中的には義経との確執と意地があったかのようにいわれているが、東北で当てるたちの時代の部族連合の時代から数百年(安倍頼良以降でも130年)続いてきた律令制度や朝廷の支配の及ばないところでの興隆に、次の時代の参考にしたといわれていることも大変興味深い。
 もちろん、阿弖流為やモレ、その後の安倍一族、藤原経清らの一人ひとりのストーリーも実に面白く、読み行ってしまう。下手に電車の中などで読んでいると、突然涙があふれてきてどうしようもないことが何回もでてくる。中でも、中心的な経清とその妻(安倍頼良の娘、小説では結有=ゆう)との関係、そして前九年の役で経清は戦死し、妻・結有は敵将の清原家(武貞)に子連れ(清衡)で嫁ぎ、そこでの暮らし、清衡が成長していく中で母をののしる立場となるが、その母の真の想いを知ることが起きる。それは闘いの場で蝦夷の血を引く女たちが見せる意気地なのだが、壮絶で悲しくて、とんでもない量の涙がでてくる。
 また後三年の役では、源義経と藤原家の関係、頼朝と義経のことなど、断片でしか知らなかったことなどが、大きな時代背景とともに知れて、何回も地図や年表などを参考に調べるなど読み進むのも結構大変だ。

高橋克彦の奥州三部作ではあとは、「天を衝く」だけとなったわけだが、蝦夷の歴史や朝廷側とのたたかいの歴史を調べたり、訪ねたり、すっかり東北の虜になっていく。