いよいよ、第2次怪獣ブームの先頭を走った『帰ってきたウルトラマン』の全話ざっくり感想です。
『ウルトラセブン』『怪奇大作戦』『マイティジャック』と辛酸をなめてきた円谷。一方で、再放送やグッズなどを通じての怪獣人気の再燃を迎え、ついに「帰ってきた」ウルトラシリーズ。その内容や世界観、作風は『ウルトラマン』『ウルトラセブン』からそのように変化していったのか。そういったところを、全話鑑賞を通じて考えていきます。
『帰ってきたウルトラマン』第1話~第10話 ざっくり感想
【第1話】
「怪獣総進撃」(オイル怪獣タッコング・ヘドロ怪獣ザザーン・凶暴怪獣アーストロン登場)
東宝の『怪獣総進撃』に比べると数は少ないが、それでも3体の怪獣がいきなり登場。満を持してのウルトラマン復活ということで、作り手側も相当なやる気に燃えていたことが分かる。監督は、あのゴジラの生みの親の一人、本多猪四郎さん。ザザーンとタッコングの激闘から、郷秀樹の死と再生、ウルトラマンとの一体化、MATや坂田兄弟との関係、アーストロン登場から新マン登場……。第1話でこれほどの要素を詰め込んでくるメガ盛り感。こんなに要素が多いと、取っ散らかった印象を受けそうなもんなのに、驚くほど丁寧に整理された話運びで、スムーズに進行する。これは本多猪四郎監督の手腕ゆえか。『ウルトラマン』『ウルトラセブン』とは違って、『帰マン』は主人公の「人間」である郷秀樹に寄り添って物語が進行。より等身大というか、感情移入しやすいキャラクターになっているのは、時代が求める主人公像の違いなのかなと。ラスト、アーストロンとの戦いが夜の荒野だったのはちょっと残念ポイントで、市街地? に近いところでの戦いが序盤にしかなかったのが勿体ない。まあ、怪獣3体も出してくれてて、それ以上を望むのは贅沢かな。
【第2話】
「タッコング大逆襲」
主人公の慢心から、ウルトラマンになれなくなる展開は良くあるけど、それを初期に持ってくるのは、実は後年の『ウルトラマンコスモス』もそうだったりする。慢心による失態が理由で、現場から離される展開も同じ。ただ、この第2話では、郷秀樹は一度は本当にMATを辞めた形になるし、頼みの綱の坂田兄まで郷を突き放すなど、かなり当たりが強い話になっている。こういうところにも、スポ根的な色合いを感じるなあ。もちろん、「敢えて」の突き放しだから、本当は坂田兄も郷のことを大切に思っているし、加藤隊長も郷の中にある本当の強さを信じているような素振りを見せていて、だからこそ自らを振り返り、本当に大切なものに気づいた郷の「やりぬく姿」に感動を覚える。タッコングと闘った後の、お口直し的なエンディングも爽やか、かつグッとくるものになっていて良い。今回は石油コンビナートの大規模破壊シーンが見どころ。2話に渡って登場したタッコング。非常にユニークな怪獣で、印象に残る。
【第3話】
「恐怖の怪獣魔境」(岩石怪獣サドラ・地底怪獣デットン登場)
今度は同時に2体登場!! 「怪獣を出す」という需要に、とことん答えまくっていた初期の「帰マン」。サドラは非常に面白い怪獣で、霧しぶく中にぬっと姿を現すシーンは中々に怖い。一方のデットンは、『ウルトラマン』に登場した奴の劣化版と言った感じで、少々残念な出来栄え。前回は、ウルトラマンと一体化したが故に能力が向上し、慢心に走った郷が描かれていた。今回も郷の特殊能力が、MAT内での不和を引き起こす話ではある。ただ、今回は加藤隊長という何よりも頼りがいのある理解者が郷の後に入るし、MAT内でも完全に孤立したわけではないことが、隊員の描写によって分かるようになっている。今回は郷の悩みというより、郷と他隊員の対立を解決するために単身乗り込む加藤隊長の物語。ほとんど声を荒げることがなく穏やか、それでいて内心には誰よりも熱く情熱を燃やす隊長の「漢気」がうかがえ、またそんな隊長と深い信頼関係にある郷の描写が良い。ただ、今んところ郷が「正しいんだけどトラブルメーカー」的な立ち位置にいるので、主人公なのに応援したい要素に乏しいのが欠点か。
【第4話】
「必殺! 流星キック」(古代怪獣キングザウルス三世登場)
当時はやっていたというスポ根モノの影響を多大に受けた話で、後年の「ウルトラマンレオ」は、この展開がずっと続く(笑)。怪獣に敗れたウルトラマン。相手の武器を攻略するために、無謀な特訓に挑む主人公の物語は、ウルトラシリーズにおいてはこれが初。相手が四つ足怪獣で格闘に秀でないキングザウルス三世というのが良くて、古代怪獣の癖にバリヤーによって全ての攻撃を跳ね返してしまうっていう、このアンバランスな感じが良い。個人的には、帰マンの登場怪獣の中でも好きな部類の怪獣。一度は怪獣に敗れてしまったウルトラマン。バリヤーを攻略するための流星キック習得に励む郷秀樹。それを見守るアキと次郎君……って、やっぱりスポ根的だなあ。偉いなあと思うのは、郷秀樹一人だけが頑張るんじゃなくて、MATはMATでバリヤー攻略の作戦を立てて、それを実行しているんだよね。あと、加藤隊長が、病院を抜け出した郷を案じるシーンも良かった。舞台は今回も荒野みたいなところで、あんまり変わり映えしないなあと思ったんだけど、四つ足怪獣は市街地に埋もれてしまうからね。流星キックには広い舞台が必要だろうし、今回は舞台とアクションが上手く呼応していたと思う。
【第5話】
「二大怪獣東京を襲撃」(地底怪獣グドン・古代怪獣ツインテール登場)
またもやMAT不和回です(笑)。もう少し仲良くしろよ。郷の人並外れた張力によって、怪獣の卵だと悟るシーンは、もう少し言い方に気を付ければ、軋轢を生じさせることなく対処できたんじゃないか? マンやセブン、あるいは怪奇大作戦とは違って、対立が個人の感情に頼り過ぎていて、MAT全体が未熟な感は否めない。しかも第3話と同じで、郷の特殊能力故に対立が生じているからね。ただ、今回の見物はやっぱり怪獣で、グドンもツインテールも帰マン登場怪獣の中では、代表格。この2体が大暴れするシーンは大迫力だし、2体に追いつめられるウルトラマンのシーンは、ほのかに燻る夕焼けが非常に味わい深い。味わいと言えば、坂田兄弟の支えが、初期の物語ではすごく大きな意味を持っているのもこの話の見どころの一つ。兄のようでも、父親のようでもある坂田兄。岸田森さんが演られているだけあって、役の説得力が凄い。アキはアキで、その屈託のなさが郷の支えになっていることがよく分かる。このアキさん、本当に災難にばっかり会う人だけれど、この第5話がその最初。その後の展開を知っていると……今からもう辛い。
【第6話】
「決戦! 怪獣対マット」
前話が郷と坂田兄弟のストーリーに重きが置かれていたのに対し、今度はMAT大活躍回。セブンまでの頼もしさをかなぐり捨てた、藤田進演じる岸田長官が登場。上層部がこういう嫌な奴役で登場するのも、『帰マン』から始まったと思う。これも時代の流れってことだろうか。核爆弾以上の破壊力を持つスパイナーを前に、避難を拒む坂田兄弟とその理由、郷から隊長への訴え、失敗すれば解散というリスクを覚悟に変えて戦い抜くMATなど、アツい展開が目白押しで目が離せません。ただ、決戦までに人間同士のやりあいが結構長く続くので、今見るとそのドラマ部分に見ごたえを感じることはあるけれど、子どもの頃に観ていたら「さっさと始めろよ」ってじれったく思ったかも知れない。ウルトラマンとの戦いでは、「バードンとケムジラ」の関係のように、食物連鎖を前面に押し出した決着だと、より納得感があったかもしれない。まあ色々と言いたいことはあるけれど、やっぱり『帰マン』はラストの爽やかな後味が見どころの一つなわけで、今回は作戦成功を称え。一人一人の手を握りしめる加藤隊長の姿にグッと来てしまった。
【第7話】
「怪獣レインボー作戦」(透明怪獣ゴルバゴス登場)
またしても山の中での戦闘……後半になれば増えるってわかってるんだけど、そろそろ市街地での戦闘が欲しいところ。景色が変わり映えせず、日本の山にはどんだけ怪獣がおんねん、と突っ込みたくなってしまうところ。天狗かよ。今回は透明怪獣! なんだけど、山の中で透明になる意味があんまりよく分かんない。その怪獣に塗料を吹きかけるから「レインボー作戦」。でもさ、これって『ウルトラセブン』第1話「姿なき挑戦者」と同じ展開だし、しかも色がついても地面に潜ってるから平気、というんじゃ、MATの成果があんまし強調されていない。全体的に地味な作品で、「怪獣出現」についての疑心など、前の展開からトレースしたものも多い。ゴルバゴス自体も、あんまり印象に残らないんだよなあ。同じ透明怪獣でも、『ウルトラマン』のネロンガの方が遥かにインパクトがあった。もっとやりようはあったと思う。
【第8話】
「怪獣時限爆弾」(爆弾怪獣ゴーストロン登場)
またしても郷の失態です(笑)。今回ばっかりは擁護しきれない。セブンなんて、「史上最大の侵略」で満身創痍になるまで失態らしい失態はほとんどなかったのに郷さんと来たら……。そんな郷に、己の慢心を悟らせるためにとことんまで特訓に付き合う加藤隊長。やっぱりスポ根風。体に爆弾がついていて、怪獣そのものより爆弾の方がヤバいってのはウルトラシリーズでよくある展開で、しかもその相手がいかにも鈍そうなゴーストロン。MATの危惧をよそに、爆弾施設の横に座り込んで日光浴とは呑気すぎる。人間側の苦慮なんて一切気にしません的なスタンスは良かった。途中、怪獣の生態をより研究する件や、次郎くんが怪獣被害を食い止められないMATに怒りを向けるシーンなど、掘り下げれば面白いドラマになりそうな摘み食いはあるのに、それが物語にあまり関与してこないのが勿体無いところ。この辺からかな? 郷と南隊員が仲良くなっていって、相棒のような関係になる。
【第9話】
「怪獣島SOS」(古代怪獣ダンガー登場)
これは、個人的に結構好きな回です。次郎くんとの約束を守らせるために出張を代わってくれる南隊員、それを後から知って厳しくも優しく諭す加藤隊長など、MAT内の雰囲気が良い。怪獣島に調査に来ていた人たちも協力的かつ有能で、不用意に事態を引っ掻き回すキャラクターがいないからストレスなく観られる。古代怪獣ダンガーは、今まであんまり好きじゃなかったけど、改めて見るとイフに似てるところとか、けっこうカッコいいのではと思えてきた。ウルトラマンとのバトルも、やや引き気味の画の中で、中々にバイオレントな殴り合いを展開。初代マン兄さんを彷彿とさせて見応えがある。見応えといえば、MATメカの解体メンテナンスのシーン。普通ならセリフだけで処理しそうなところを、しっかり分解されたMATメカを出してくるあたりは本当に偉いと思う。やっぱ特撮は、見えてナンボですよね。
【第10話】
「恐竜爆破命令」(化石怪獣ステゴン登場)
これは好きじゃない回。前2作で良いバディ感を出してきていた、郷・南コンビのことが嫌いになる回。そして加藤隊長に同情する回。爆破で甦ったことに対して、隊長に反省を迫る郷って何様!? しかもチーム全体の協力が不可欠な作戦に不参加って、郷も南も謹慎程度じゃ済まない態度。とてもプロとは思えない。子供たちから怪獣を奪うことになる葛藤は、それこそウルトラマン「恐怖の宇宙線」でも描かれていたけど、ガヴァドンは本当に何もしなかった。こっちは自業自得に見えるとは言え、溶解液で一人死んでるんですよ。絶対に野放しにしちゃダメでしょ。これまでの中で一番生産性のないMATの姿が見えてしまって、前半と後半でぶれぶれのキャラにもガッカリ。あとここまで一回も市街地戦がないんですけど。似たような風景で、さすがに飽きてきます。この話最大のサプライズは次回予告で、それまでのシリアスかつ大人向けな感じを一変させ、ものっすごい「良い子のお友達へ向けたメッセージ」っぽくなる。悪くいうと馴れ馴れしくなって、この変わりっぷりには爆笑。ーーって、本編関係ないか。