補論3ー1 台湾独立への5段階 | 中国について調べたことを書いています

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(1)台湾独立への5段階

ここでは戦後台湾の独立への過程を5段階に分けて分析して見せた陳佳宏の「台湾独立運動史」(玉山社、2006年、5ページ、32ページ)を見てゆくことにする。

 

 陳のいう5段階とは以下のとおりである。

客観的台湾独立(客觀的台獨)

②実質的台湾独立(實質的台獨)

③主観的台湾独立(主觀的台獨)

④建制的台湾独立(建制的台獨)

⑤法理的台湾独立(法的台獨)

 

 順番に見ていこう。

 

①客観的台湾独立

 陳はこの段階を以下のように説明する。

 

「台湾島およびその付属島嶼の地理的な空間に、一定の人民を持ち、自主的で最上位の統治支配をしている政権統治。すなわち「領土」「人民」「実効統治している政府」と「他国との外交能力」という国家の成立要件を備えたもの」

 

そして陳は1949年から1992年までの「中華民国」が「客観的台湾独立」であるとしている。この客観的台湾独立というのは、見てわかる通りモンテビデオ条約の国家の成立4要件を満たしているかどうかである。つまり、陳によれば、国家成立の4要件を満たしていても、台湾は独立していないというのである。

つまり、ここでいう「独立」とは「国家」とは別の概念であることになる。

では、彼のいう「独立」は何を意味するのか。それは以下の段階を見てゆくとわかる。

 

②実質的台湾独立

陳はこの段階を、以下のように言う。

 

政権の合法性、台湾島という地理的な空間の全ての住民の授与によって合法性を持った国、つまり国民主権国家である。1992年から1999年の「中華民国在台湾」がこれに当たる。

 

 台湾独立への5段階の②「実質的台独」では合法性を問題としている。彼の言う「合法性」は、「住民の授与によって」成立すると書かれている。先に検討した国家成立要件の「合法性」(ジェノサイドなどの不在)とは若干異なる。しかし、住民が主権を認めるだけの合法性という意味ならば、これは主権の意味であり、4要件に含めてもいいようにも思える。また、ジェノサイドなどを含む考えであるならば、これは先に検討した国家成立要件の「合法性の原則」に相当すると考えてもいいだろう。

 

③主観的台湾独立

陳はこれを以下のように説明している。

 

「客観的台湾独立」の要件に加えて、台湾住民の圧倒的多数(政権担当者も含む)が台湾がすでに独立自主の主権国家であることを認識し、信じて従うこと。鍵となるのは台湾住民の政治的アイデンティティーの趨勢である。1999年の「二国論」発表から現在(注:2006年)までの台湾である。すなわち、この「主観的台湾」の段階にあれば、この国家は「台湾中華民国」と称してもよいだろう。

 

陳は「③主観的台独」は「台湾住民の圧倒的多数(政権担当者も含む)が台湾がすでに独立自主の主権国家であることを認識し、信じて従うこと」と言っている。また、「1999年の「二国論」発表から現在(注:2006年)までの台湾である」とも言っている。つまり、2006年の段階で、台湾はこの「主観的台湾」の段階にあり、台湾民族というアイデンティティーを多くの台湾在住者が持っているというのである。

 

④建制的台湾

 陳はこの段階を以下のように説明している。

 

台湾の全ての建制(行政機関、政府機関、司法機関などの編成や系統)が「名目と実質が合致」すること。例えば、代表としてのシンボル性を持ち、台湾を象徴する名称を持つこと。すなわち国旗、国歌、国憲、国号などの名称のことである。2000年以降の民進党政府の一部の政策は、ある程度「建制台湾独立」の意味を持っていると言える。

 

④は主に行政機関の編成や名称の問題であり、これがないからと言ってそれだけで国家を否定されるものはないように思える。少なくとも、これを国家成立要件に含める必要はないように思える。ただ、陳はこの段階を経たうえで次の段階に進むと説明している。

 

⑤法理的台湾

 最後の段階は以下のように説明されている。

 

 以上4段階の台湾独立の進展を基礎として、国際社会において大部分の(主要な)国家の承認を受け、国連に加盟し、正常な主権国家となることである。これによって100パーセントの台湾独立となる。

この段階に至る具体的な状況は国連加盟が実現した日である。

 

最後の⑤「法理的台独」で他国の承認、国連加盟が述べられている。これは先に検討した国家成立要件に含まれるものである。他国の承認があって初めて「独立」と言えるのであるから、陳の立場は創設的効果説に近いことがわかる。

 

 

つまり、陳はモンテビデオ条約の4要件に他国の承認、合法性を加えて、これらすべてを満たすことが「台湾独立」に必要だとしているわけである。これは先に検討した最狭義の国家成立要件と同じである。

ここまでを見る限りでは、彼の考える「独立」とは、モンテビデオ条約の4要件に、国家承認と合法性を加えた6要件を満たしたものであると考えられる。

 

 これを整理したのが以下の表である。

 

 

陳佳宏の台湾独立の5段階

国家成立要件

客観的台湾独立

①国民、②領域、③主権、④外交能力

実質的台湾独立

(⑤合法性)

主観的台湾独立

 

建制的台湾独立

 

法理的台湾独立

⑥他国の承認

 

 陳の言う5段階は、国家成立要件とかなりの部分で一致している。

しかし、陳は「③主観的台独」と④「建制的台独」をという2つの段階を設定しており、これもクリアしなければ「独立」にはならないという。

④は主に名称の問題であり、これは他の要件に比べれば台湾独自の問題であるように思える。一般に国家の名称を国家の成立要件に加えることはないだろう。

しかし③のアイデンティティーの問題は、一つの重要な問題提起をしているようも思える。これを次節で検討することにする。