(2)帰属意識と国家成立の関係
台湾の居住者はいかなる帰属意識を持っているのだろうか。
参考までに1992年から2019年までの調査結果を載せておく。
これは台湾居住者に、自らが中国人だと思うか、台湾人だと思うかを聞いたものである。
https://note.com/meihua87/n/n023f0273df40
この調査によれば、2006年の段階で自らを「台湾人」だと考えている人は44.9%、台湾人であり中国人でもあると考えている人が44.2%となっており、自らを中国人だと考えている人6.3%を大きく上回っている。そして、その差はその後さらに開いている。44.9%という割合が③主観的台独の「台湾住民の圧倒的多数(政権担当者も含む)が台湾がすでに独立自主の主権国家であることを認識し、信じて従うこと」に該当するかどうかは少し疑問があるが、ただ自らを「台湾人」だと考えている人が圧倒的に多いことは確かである。したがって、もしこの民族意識、帰属意識が要件に入ったとしても、これを充足する可能性はある。
しかし、そうはいっても、民族意識、帰属意識を国家の成立要件に入れるというのは無理があろう。
民族とは何かというのは非常に主観的な問題であり、自らがどんな民族に属しているかを調べることは難しい。ある人がどこに帰属する意識を持っているかも一概に決められるとは思えない。また、これらは時代や状況によって変わる可能性のあるものである。時代や状況が変化し人の意識が変化したからといって、台湾が国家になったり、国家でなくなったりするのは困る。
そもそも、ここでいう「台湾人」というのも、1960年代は本省人を指す言葉であったが、現在は外省人も含めて台湾民族だという言い方もされる。国民党が台湾にわたって70年がたち、外省人と本省人の結婚も増え、その二世を外省人とするか、本省人にするかという問いも、意味がなくなってきている。そんな中、帰属意識や民族意識をもっている人が多いかどうかで国家になるかどうかを決めるというのも妙な話である。
少なくとも、1~2章で上げた国家成立6要件の中に、このような民族意識、帰属意識という要件はなかった。つまり、国家に帰属意識を持っているか、自分がその国の国民であることを意識しているかどうか、そういう国民の意識は、政治学、国際法学の世界では、国家の成立要件と考えられていないということである。これはつまり、国民がその国に対して帰属意識を持っていなくても、国家として成立するということである。
台湾において、自らが「台湾民族」だという意識を持っている人が少数派だったとしても、台湾という国家は成立しうる。