4-2-1 ハーゼル説の批判的検討 (ⅰ)台湾はアメリカの軍事占領下にあるのか | 中国について調べたことを書いています

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 (ⅰ)台湾はアメリカの軍事占領下にあるのか
 
 まず、軍事占領とはどのような概念なのかを確認しておきたい。

 

 これは学術的な定義ではないのだが、国語辞典や用語辞典などをみてゆくと、おおむね以下のような要件を満たしたものが軍事占領と考えられる。

 

a.戦争中(交戦中)であること

b.他国の領土、地域であること

c.軍事力をもって行ったものであること

d.秩序維持のための支配権が確立していること

 

 これを台湾に当てはめて考えてみよう。

 

a.戦争中(交戦中)であること

現在、アメリカが日本と戦争中であるという事実はないだろう。ハーゼルの言う戦争というのは太平洋戦争を指す。そして、その戦争の当事国はアメリカ・中華民国と日本である。しかし、1945年にポツダム宣言の受諾で戦争が終わり、サンフランシスコ講和で平和条約が結ばれたことで、太平洋戦争は名実ともに終了し、アメリカと日本の間の戦争状態は終了したと考えるのが妥当だろう。ハーゼルはその戦争はまだ終了していないという。戦後70年を過ぎた今も戦争状態が続いているというのは、あまりにも現実離れしている。たとえば日本がまだ平和条約を結んでいない北朝鮮などとはまだ戦争状態だと考えることはできるが、アメリカと日本がまだ戦争中だとは考えにくい。

 

b.他国の領土、地域であること

アメリカにとって台湾が自国でないことは確かである。

 

c.軍事力をもって行ったものであること

アメリカが軍事力で台湾を占領したといえるかは微妙だと思う。戦争中、台湾にアメリカ軍による空爆があったのは確かであるが、アメリカの軍隊が台湾に上陸したことはない。また、ハーゼルは、戦後、マッカーサーが蒋介石を台湾に派遣してそこを占領させたという。つまり、アメリカは間接的に台湾を軍事占領したというのである。しかし、蒋介石がアメリカの代理で台湾を軍事的に占領したという事実はない。1954年に結ばれた米華相互防衛条約に基づき台湾に米軍が駐留していたのは事実だが、それが軍事力をもって占領したものとは言えない。米軍の駐留は1979年の米中国交正常化によって終了している。

 

d.秩序維持のための支配権が確立していること

戦後アメリカが台湾に対する支配権を確立し、台湾の秩序を維持しているという事実はない。ハーゼルの意見を信じるなら、現在の中華民国政府はアメリカ軍の支配下にある傀儡政権ということになる。そしてハーゼルは支配を実施する機関としてUSMG(アメリカ軍事政府)なる組織が存在するように書いているが、そんなものが存在しないのは言うまでもない。ハーゼルはアメリカが「主な戦勝国」であり、台湾の「主な占領権国」であると言っている。そういう言い方は可能かもしれないが、「占領権国」であることと、実際に占領していることとは全く別のことである。占領する権利があるからと言って、その権利を行使するとは限らない。もちろん、米華相互防衛条約によって台湾に駐留した米軍が、秩序維持のために支配権を行使した事実はない。この時期も支配権は国民党政権にあったのは間違いない。

 

結局、3つの要件を満たしていない。したがって台湾がアメリカの軍事占領下にあるという議論は全く成立しないと考えてよい。

 

ただ、ここで挙げた4つの要件はあくまでも仮の定義である。もう少し広く緩い定義も可能かもしれない。

例えば、aの戦争中という要件については、軍事占領の要件から除外できるかもしれない。戦争中に行われた軍事占領の状態が、なんらかの理由で戦争が終わっても継続することは可能であろう。

また、cの軍事力をもって行われたという要件を、より広く解釈することは可能であろう。ハーゼルの言うように、マッカーサーが蒋介石を台湾に派遣して占領させたことを間接的な軍事力の行使と考えることはできるのかもしれない。

しかし、dの支配権の確立という要件だけは外すことはできないし、またこの要件を満たしているとは到底思えない。アメリカ軍事政府という存在しない組織を存在するということはできない。

 

いかに要件を広く緩くとっても、ハーゼルのアメリカ軍事占領論は成立しない。