4章 ハーゼル説の批判的検討
(1)ハーゼルの意見の要約とアメリカ軍事占領論/亡命政府論
①要約
4章では、3章で取り上げたハーゼルの意見を批判的に検討してゆくことにする。
台湾は国家成立の4要件を満たしていないので国家ではないとしているが、その意見を要約すると以下のようになる。
国民については、戦後行われた日本国籍から中華民国国籍への一括国籍変更は、アメリカ軍事占領下での一括国籍変更であり戦争法違反である。台湾居住者の中華民国国民への一斉国籍変更は発効していない。したがって、台湾居住者は中華民国の国民とは言えない。
領土については、台湾の台湾島、澎湖、金門・馬祖は、アメリカの軍事占領下で中華民国が手に入れて保持し続けているだけであり、現在まで平和条約によって権利が正式に台湾へ引き渡されたわけではない。
現在、「中華民国」と呼ばれる政府があって機能しているが、この政府が実効支配している領域は、政府が合法的に獲得したものではない。現在の政府は、本来台湾を統治する立場の政府ではない。したがって、現在は台湾を正式に代表する主権を持った政府は存在しない。
外交能力については、台湾が現在正式な外交関係を持っている国家はあるが、これらの国との外交関係は、「亡命中の中華民国政府」の保護の下で行われているにすぎないので、台湾との外交関係ではない。
国家成立の国民、領土、政府、外交能力の4要件をどれも満たしていない。したがって、台湾は国家ではない。
彼が台湾は国家ではないとする根拠をごく簡単にまとめると、以下の2点に集約される。
(1)現在の中華民国政府はアメリカの軍事占領下にある。(アメリカ軍事占領論)
(2)現在の中華民国は違法に台湾を支配している亡命政権である。(亡命政権論)
それゆえ、中華民国は国家成立の4要件は満たしていない。
この2点について、以下で詳しく検討してゆこう。