徳川家康の決断
――桶狭間から関ヶ原、大坂の陣まで10の選択
徳川家康が決断したターニングポイントについて語るとなっているが、実際には10のポイントとして「桶狭間の合戦」「三河一向一揆」「三方原の合戦」「嫡男信康の処断」「本能寺の変」「小牧・長久手の合戦」「石川数正の出奔」「小田原攻めと関東転封」「関ヶ原の合戦」「大坂の陣」と幅広いテーマが挙げられており、一つの家康の決断にいたるまでは、相当程度の紙幅を割いてその背景について語られているため、新書自体はほとんど家康の通史と言ってもよい内容である。
信長、秀吉、家康という三英傑の中では、一番、家康が取り上げられることが少ないのではないだろうか。
戦乱の中を活躍した信長、秀吉に比べると、家康が天下統一に向かって大きく前進したのは、秀吉没後のことであり、世の中がまとまりかけていく中での政治的な面が強く、小説などの題材になりにくいからなのかもしれない。
しかし、信長の律儀な同盟者、秀吉臣従後は豊臣政権の屋台骨として生きてきた家康も、幾多の困難の中で命拾いをし、細い細い糸を手繰るようなギリギリのところをくぐり抜け、運も手伝って、最後に天下人となったことを知った。
本書は、家康から見た戦国史でもあるわけだが、信長や秀吉と深くかかわってきた家康の歴史は、まさに戦国時代のど真ん中の歴史でもある。
戦国物は結構読んでいて、新書のレベルで言っても、書く人によって相当世界観が違うなと感じているところであるが、本書は様々な通説を取り上げて批判したり、通説を批判する新説は興味深いが根拠が弱いなど、多くのトピックスについて、学術的な戦国時代の最前線の事情を伝えてくれる。
特に桶狭間以降に徳川家が戦った、今川氏、武田氏、北条氏等との関係は面白かった。
今川氏真、武田勝頼、北条氏政を取り上げて、滅びた家は滅びるべくして滅んだ、なぜなら当主が暗愚だったから。と、小説だと身もふたもないような結論を下されてしまいがちだが、実際の政治状況というのはそんな単純なわけはないのである。
まさに家康が直面した戦国時代の実像は、小説以上に興味がわいたし、読み応えがあった。
面白かった。