和田竜「村上海賊の娘」1 | 世界文学登攀行

世界文学登攀行

世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。

「村上海賊の娘」第一巻


歴代の本屋大賞作品から選ぶ 読書家おすすめの10冊リスト 」の本を読むということをはじめた。第一弾は「村上海賊の娘」である。


著者の和田竜は「のぼうの城」を読んだことがある。
また、村上海賊(水軍)については、高校生くらいの時に、城山三郎「武吉と秀吉」を読んだことがある。
ということで、縦にも横にも、それなりになじみのある作品ということになる。


個人的なことになるが、学生時代は小説と言えば、吉川英治や司馬遼太郎などの歴史小説を指した。
それが大人になると、歴史の真実に迫ろうとするならば、史料の裏づけのある新書(本当は専門書や、一次史料なのだろうけれどそこまではできない)のようなものを読むべきだし、小説になると、それは著者の主張に沿ったフィクションになってしまい、それはもうただの小説であり、小説であるならばわざわざ歴史にこだわる必要もない、と思うようになった。
そのような理由から、歴史小説はしばらく敬遠していた。


リストに沿って本を読むのは、自分の好みとは別に本が選ばれるのであって、仕方なく読みはじめたのだけど、これは歴史の本ではなくて、小説なのだと最初から割り切ってしまえば、すっきりと物語世界に入っていける、ということを知った。
村上海賊、毛利家の武将、石山本願寺、織田信長。実在した人たちを借景にした物語の舞台というのは、世界観を一から構築する必要がない。なるほど、小説が歴史を材にすることの効用はこんなところにあるのかもしれない、と妙に感心するところがあった。


全4巻のため、物語はゆっくりと進んでいくけれど、主人公がかっこよすぎず、粗削りでゴツゴツしていて、口元に笑みを浮かべながら読み終わることができた。読ませる力は、さすが本屋大賞の中でもさらにおすすめの作品を選りすぐっただけある。


実は、この作品、様々な史料からの引用がある。
これは全部読んだのだろうかと驚きと疑いをはさまずにはおれないほど、出典が広範である。
そして、そのような語り口が、いかにもそれらしい雰囲気を醸し出しており、この作品の味になっている。



村上海賊の娘(一)(新潮文庫)/新潮社
¥価格不明
Amazon.co.jp