医療危機
――高齢社会とイノベーション
最先端医療の進展や高齢化に伴い、国家の医療負担が高額になり、将来、医療制度の破綻が危惧されている。
自分が高齢者となる頃にはどうなっているのかという心配もあり、このテーマは、非常に興味がある分野であった。
医療行為を受ける権利は当然与えられるもの、という認識が日本では強いが、もっと経済的に、医療行為をサービスとしてとらえるべきであると本書は説く。
より効果のある医療を、容易にアクセス可能で、安価で受け続けるためには、医療提供者側にも、患者の側にも、イノベーション、つまり、意識を含めた改革が必要であるという。
そのためにはどうすればよいのかということを、日本とは前提の違う海外での取り組みなどを紹介しながら、一緒に考えていきましょうという内容である。
国民皆保険制度のなかったアメリカでの取り組みや、徹底したIT化による効率的な医療サービスの体制づくりを行う国など、初めて知ることが多く、視野が広がる思いであった。
と、ともに、世界中のどこでも、程度の差こそあれ、同じような問題に直面しているという事実があり、この問題に効く万能薬というものはなく、限られた資源の中で、医療の質、アクセスの質、患者の負担(価格)のどこに重点を置いていくかという戦略が今後重要なことも知る。
医療体制の構築づくりはすべて政府が行うべき仕事であり、その不満は政府にぶつけていればよい、というような錯覚は今後は通用しなくなるかもしれない。まず、自分の健康は自分で守るように努力していく、そういう意識改革も、患者側に求められるイノベーションの一つなのであろう。
生命の維持以上に、QOL(生命の質)に重点を置く医療に光が当たりつつあることなど、新たな視点を提示する一冊でもあり、多くのことを学んだ一冊であった。
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