中北浩爾「自民党」 | 世界文学登攀行

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世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。

自民党
――「一強」の実像


こういう本が読みたかった。


選挙制度や時代の変化などから必然的合理性をもって説明される自民党の姿は非常に説得力がある。
因果関係が明確な記述は、自民党という組織を動的な有機体としてとらえている。


ニュースになるようなトピックスは、本来の軌道から外れるためにニュースになるのである。
あるべき姿を知らずに、ニュースだけ取り上げても、そのことが示す座標を知ることはできないだろう。


この本は、一冊読めば、自民党がどういう存在なのかがくっきりわかる。
長年の政権党である自民党を知ることは、日本の政治を知ることであり、自分の政治に対する見え方がいかに浅薄であったかを思い知った。
それは、視界が開ける愉快な体験でもあった。


そして、この本で取り上げる対象は、実際に起きた政治の流れでもあり、読み物としても非常に面白い。


1994年からはじまる政治改革、小選挙区制の導入によって、自民党の派閥政治は崩壊し、強いリーダーシップを持った総裁、執行部による政治へと変わっていく。2001年の総裁選挙で「古い自民党をぶっ壊す」と叫んだ小泉純一郎首相は、その結実のような人物であった。
時代に即応した様々な改革を成し遂げた首相であったが、本当に自民党をぶっ壊してしまい、2009年に政権を失うことにつながっていく。


政権に返り咲いた自民党を率いる安倍晋三首相は、本書によると、手腕に長けた政治家であるという印象がある。高い内閣支持率と、議席数などを背景にすれば、小泉首相のような強権的な手法も取りうるらしいが、政策実現のためには、必要な懐柔や妥協を行う、無理のない政権運営を行っているようである。
ニュースでは見えてこない、小泉首相と安倍首相の違いということもまた非常に興味深いテーマである。


いろいろと感銘を受けることが多かったが、詳しいことは本書を読んでもらうしかあるまい。
政治学の専門家が書く、政治入門書といってもよい一冊。
なにからなにまで面白かった。



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