ダ・ヴィンチ絵画の謎
他の芸術ならわかる、というわけではもちろんないのだが、絵画、というのは特にわからない分野である。
ところが、たまたま、「アンギアーリの戦い」を見に美術館に行ったりするくらい、ダ・ヴィンチだけは知っている。
もっとも、絵の評価云々というよりは、万能の天才ダ・ヴィンチという存在が好きなだけなのかもしれない。
本書によれば、15世紀後半、フィレンツェで産まれたレオナルド・ダ・ヴィンチは、甚だ変人であったようである。
ダ・ヴィンチは正式な署名など以外は、すべて鏡文字を用いていた。鏡に映したような反転文字である。頭が良すぎるがゆえに、と後世の評価から逆算してそういう言及も可能だが、隣人が字を反転させて書き続けていたら、異常を越えて不気味さすら覚えるだろう。
また、絵画職人として確かな腕を持ちながらも、依頼された作品を完成させられずに放棄してしまう、癖のようなものもあったようである。ここまで来ると、芸術家の潔癖や気まぐれを差し引いても、ダメ人間とすら言えるのかも知れない。
そんな、立派な社会不適合者であったダ・ヴィンチ君であるが、その絵画の中にすくい取ろうとする現実の「世界」に関する探究心は、異常なほど旺盛だったようだ。芸術家の鋭さと、たゆまぬ研鑽を積み重ねた結果が、専門に学術的訓練を受けていない一介の絵画職人をして、至高の高みにまで引き上げたのだろうかという印象を受けた。
本書では、ダ・ヴィンチの膨大な手稿を丹念に整理することで、人間ダ・ヴィンチが浮かび上がってくる。
そこには後世、世間から付加された天才のイメージを剥ぎ取ったあとの、本当の天才の姿がある。
精緻に考察された客観的資料の裏付けには重みがある。
さて、本書のタイトルでもある「ダ・ヴィンチ絵画の謎」である。
絵を見るのにそんな理屈ばった説明いるのかという感じが小うるさく感じた上によくわからなかった。
とは言え、本書には、ダ・ヴィンチの絵や手稿がカラー写真でたくさん掲載されており、それを見るだけでもダ・ヴィンチが身近に感じられてよかった。
あまりに有名なのでじっと見たこともなかったのだが、「モナリザ」は、とても優しい絵だなと思った。
- カラー版 - ダ・ヴィンチ絵画の謎 (中公新書)/中央公論新社
- ¥1,080
- Amazon.co.jp