青木裕司「世界史B講義の実況中継」1 | 世界文学登攀行

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世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。

大学への内部推薦のある高校に通っていたので、受験勉強とは無縁の生活を送っていた。
ただ、勉強は好きだったので、趣味で「世界史B講義の実況中継」を読んだことがあった。


約20年も経つのに、青木先生が変わらない姿で講義をされていることに感動し、いつか読むこともあろうと本の購入だけはしていた。
年末、ゲーテの「ファウスト」を読んだのだが、その時に社会背景が全くつかめていないことが、作品の姿をとらえられない原因のように思えた。
「ファウスト」を読み終えた興奮に揺さぶられながら、世界の通史というべきものを読むのは今しかない。
一念発起という言葉が一番ふさわしい読書の開始であった。


世界史ってこんなに面白いものだったかと驚きながら、夢中で読んだ。
受験用講義であるからわかりやすいのは当然なのだが、文字のあるところ、文明のあるところの人間の営みをなぞることによって、その肌触りがリアルで読みごたえがある。
世界史とはまさに人間観察キットのようなものである。うごめく人間の群を眺めていると、気づくことはあまりにも多い。
現代社会は複雑で膨大で、その中に生きる一匹の僕という人間は小さすぎて、目の前の事象を越えるものはなかなか目に入ってこないのだが、人間が集団生活を営む動機、集団を維持するための宗教や哲学、法制度に芸術。またその集団が衰退に至る原因など、大いに学ぶべき教材がここにあるという感じだった。


もちろん、受験生として講義に臨んだ方が、講義の理解、定着に必死だったろうから、今よりも知識の吸収率が高いのかもしれない。
でも、試験で問われない大人だからこそ、学ぶことのできる余裕があると思う。
講師でもある著者が「文化」について、私見であると断りながら「豊かな生活、快適な生活を営むための、さまざまな知恵」と定義する。
人間の生活の目的は、やはりここに帰着するというシンプルな示唆が、物事を見る目を開かせる。



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