顎のケガ以降、しばらく恵美子とのエッチが途絶えていた。
「最近、冷たいじゃない。まだ、怒っている?」
僕は丁度学校から帰ったばかりで、夕食の買い出しにでも行こうかと思っているときだった。
「別に怒ってないけどさ。なんとなく間が開いちゃったね」
実際、僕に怒りの感情はなく、学校の講義が詰まっていて恵美子と会う時間がなかっただけだ。
「今から会えない?」
これから恵美子が来る、ということは、すなわちエッチするということだ。
しばらくエッチから遠ざかっていた僕の下半身が、ムクムクと反応した。
「うん、いいよ」
そう答えながら、前回みたいなSMぽいのは、もう無理だろうなと思った。僕は興奮したけど恵美子は終わった後、ぐったりしていたからだ。
「二人分の食費ないからさ、すまないけど、ご飯食べてから来て」
「うん、わかった」
午後8時ごろに恵美子はやって来た。また、オチャラケるのかと思っていたら、何だか神妙というか大人しくなった感じだった。
雑談をしていても、落ち着かない様子だった。
「どうしたの? 何時もと違うね」
「あっ、そうお? 何でもないけどさ」
そう言いながらも、何か言いたそうな感じだ。
しばらくの沈黙が続いた。僕は恵美子が別れ話をもちだすものと確信した。
「あのね、あのさ」
「いいよ。僕のことが嫌いになったんだね」
「そうじゃないの」
「じゃ、何さ」
「あのさ。真面目な話なんだけどさ」
短気な僕は焦らされるのが嫌いだ。
「何だよ、はっきり言ってくれよ」
「うん。あのね、前にエッチしたじゃない」
僕は先回りして言った。
「ああ、もうしないよ、あんなこと」
「違うの。逆なの。私さ、私、凄く興奮したの。あんなに興奮したの初めて。私さ、へん態なのかな」
「いや、僕だって凄く興奮したよ。刺激の一つと捉えれば普通じゃない」
その後、恵美子はひとしきりSMについて語りはじめた。理論的な恵美子らしく図書館にまで行って調べたらしい。
恵美子にしゃべらせるだけしゃべらせて、僕は言った。
「それで?」
「だからさ……。あのさ」
「また、あんな風にしたいんだね」
僕は今まで恵美子と付き合ってきて、初めて優位に立った気がした。
「そ、そうなの。私さ、何だか、ずっと変な気持ちになっちゃってさ」
僕は席を立ち、小さなテーブルの向いに座る恵美子の背後から抱きついて耳元に囁いた。
「それで、オナニーしたんだね。いっぱい、した?」
一度は恵美子に聞きたい質問だった。肉感的な恵美子は、性欲に対して旺盛だと僕は判断していたので、一人で処理することはあるだろうと思っていたのだ。
「私、シャワー浴びてくる」
唐突に答えた恵美子はサッサと浴室に行ってしまった。浴室に行く、すなわちエッチしようね、だ。
僕は聞き損ねた恵美子の核心に、ムラムラとした気持ちを抱えていた。
僕は恵美子がシャワーを浴びている間
に、捨てようと思っていた手枷とローターを引き出しから出してベッドの脇に用意した。