「私は知らなかったけど、エンドウさんとシバタさんって有名な人らしいよ」
子供たちを寝かしつけた後、録画しておいた番組を見ながらお酒を飲むのが
ボクたち夫婦の日課だ。
一日にあった事なんかを話すうち、テレビの方がおざなりになる事もある。
この時もそうだった。
思い出したように言うマヨの言葉に、ボクはリモコンで再生を止めた。
テレビを観ながら話をする事ができないボクは、興味を引く話題が出ると
いったん停止するクセがある。
「有名な人?」
「自治会でね。っていうか、このマンションで」
マヨは実家がこのマンションなので、ボクよりはるかに多くの情報が入ってくる。
自治会での出来事をボクから聞いて、それとなく情報を仕入れてくれたらしい。
「どっちも大変な人らしいよ。知り合いのおばさんにカゲオから聞いた話をしたら、
『えっ!? 今期は二人とも役員なの!?』って悲鳴あげてた」
マヨは笑って言った。
「二人とも…って、じゃああの二人はコンビってわけじゃないんだ」
ボクはてっきり阿吽の呼吸かと思っていた。
マヨは小さく首を振った。
「ピンみたい。さんまと紳助がたまたま同じ期に役員に…みたいな感じらしい」
…あ~そうなんだ~。
コンビで鼻息が荒い人間なら、引き離せば個々は大した事ない…ってパターンが多い。
だがピンで強い相手は、攻略するのが難しい。
「大変ってどう大変なのかな」
「正しいんだって。正論っていうか。だから誰も逆らえないんだって」
そっか~。
正しい…つまり「なあなあ」が許されないという事か。
正論で押し出しが強い…これは面倒だなぁ。
でも有名人だと聞いて、それはそれでほっとした。
例えば毎朝通勤ラッシュで苦しんでいたとしよう。
それが「日本で一番混む電車・時間帯・区間」である事がわかったとしよう。
なんとなく…気持ちが救われたりしないだろうか?
「あれだけ大変な思いをしてるのは、日本一だからか」と妙に納得したり
しないだろうか?
ボクはこれから一年間を共にする相手が、せめてシーサードハイツ最大の
強敵である事を祈った。
<続く>
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