…接待を受けたのお金をもらったの、政治家ではないのだから金額など
たかが知れているだろうに、それでも皆の怒りは収まらない。
額の問題ではないと言われれば確かにそうなのだが…。
ひとしきり糾弾を受けた後、前期理事長はそのしじまを縫うようにして、
「第○○期管理組合活動報告」と銘打たれた文章を読み上げ始めた。
それは、D社との契約を決めるにつき、不明瞭な流れがあった事を
詫びる内容だった。
少なくともボクにはそう聞こえた。
さきほどまでのらりくらりとかわそうとしていたのに、一転して平謝り。
最後の手段としてあらかじめ用意しておいたのだろう。
前期理事長は、最後にこう結んだ。
「今後このような事がないよう、審議においてはクリアーである事を
誓います。住民の皆様には不安を与えて申し訳ありませんでした」
…ん?
ボクは違和感を感じた。この文章はどこか変だ…。
ひっかかったのは、「今後」というワードである。
その時、「議長」と背後から声がした。
振り返ると、今期の理事長となるエンドウさんが手を挙げていた。
ボクだけでなく、今期の三役はみな出席している。
長身のエンドウさんが手を挙げると、いかにも目立った。
「どうぞ」
議長の言葉を待って、エンドウさんはゆっくり立ち上がった。
抑揚のない、ややこもる声で言う。
「今後…と今言われたが、あんたの任期は今日まででしょう?
今後ってのは、私たちの事だ。勝手にそんな誓いを立てられちゃ
困りますよ」
ボクが感じた違和感は、正にそれだった。
前期理事長は慌てて訂正した。
「これを書いた時点では、まだ任期が残っていたものだから…」
エンドウさんはその言葉で納得したのか、それ以上は何も言わずに
着席した。
エンドウさんが座ると、待っていましたとばかりに次々と手が挙がった。
議長が指名すると、指された人はエンドウさんと似たような事を改めて
口にした。
その次に指名された人、またその次に指名された人。
みな似たような内容の発言だ。
気が付けばさきほどのサカイさんも手を挙げている。
元気な小学生のように、手を伸ばしては曲げ、曲げては伸ばして指名を
誘う。
せっかくだから自分もひとこと言って、
あいつを謝らせてやろう。
挙手する皆から、そんな意図が感じられた。
前期理事長は、一度謝ってしまったものだから、もう反論はできないと
あきらめたように、何度も何度も謝った。
糾弾する内容はだんだんとエスカレートしていき、何やら精神論めいた
ものに傾き始めた。
人生論、運命論と、どんどん妙な方向に向かう。
…このまま続けると、宇宙や神の話にまで発展しそうだ。
この議題に入ってから、すでに1時間が経過していた…。
<続く>
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