「水がやばい」
水道水が乳幼児の粉ミルクを溶くのに適していないと、国から注意が呼びかけられた事は、かなりの衝撃だった。
もとより地震当日から菓子パンと飲料水は都内で手に入りにくくなっていたが、それに拍車をかける結果となった。
「そんなに買い込んだって、賞味期限が切れたらどうしようもないだろう」
そう失笑する人もいた。
それもわからないではない。
だが、不安なのだ。
事態が更に悪化して、家から一歩も出られなくなった時、あるいは東京から脱出せざるを得なくなった時の事を考えているのだ。
ボクには失笑する人たちの余裕の方が理解できなかった。
我が家も水の備蓄を行なっていた。
ボクやマヨは普通に水道水を使っていたが、子供たちはミネラルウォーターだ。
ミネラルウォーターも多分に摂取するのは子供にとってよくないとも聞いたが、放射性物質よりはマシだろうと夫婦で結論を出した。
ガソリンも手に入らなくった。
ガソリンスタンドには1時間半待ちの長い行列ができ、待たされた挙句に「今日はいれられません」と断られたそうだ。
その為に4時起きしたマヨは、「花の仕入れができなくなったらどうしよう」とこぼした。
ボクもガソリンスタンド周辺で、似た光景を何度も見かけた。
仕事で車を使う人々は、皆マヨと同様の不安を感じていたに違いない。
駅からは明かりが消え、エスカレーターは停止した。
少し暗くなった構内は、不便というより反対に気持ちを落ち着かせた。
煌々と輝く蛍光灯は、視界に暗闇がなく安全かもしれないが、反面まぶしく、興奮させる効果がある。
高速道路も夜間の照明が消え、道や建物のあちこちに暗闇が生まれる。
それが絶対的にいい事だとは言い切れないが、時代の身の丈には合っている気がした。
…続く
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