和訳『Space Oddity』(David Bowie / デヴィッド・ボウイ) | タブンダブン

タブンダブン

流浪のライター、かげぎすのブログ。書評、映画感想、洋楽の和訳などいろいろとやっています。

今回の和訳はいよいよ満を持して登場、David Bowie『Space Oddity』(1969)

 

 

 

グラムロックの祖でもあり、2016年に亡くなるまで創作活動に貪欲であり続けたデヴィッド・ボウイはイギリスの偉大なアーティストの一人として数えられています。

 

氷室京介と布袋寅泰の最強コンビグループといえばみなさんごぞんじBOØWYですが、じつはこの名前の由来は布袋が「自分の人生を変えた人」と尊敬するデヴィッド・ボウイなのですよ。

 

布袋さんは、デヴィッド・ボウイと対面したとき一生に二度と味わえないくらいガッチガチに緊張したとか。

 

 

 

そんなデヴィッド・ボウイのスゴさを語りたいのは山々なのですが、とてもここでは語りつくせない気がします。というか、うまく伝えられる自信がない……。言葉で理解するのではなく「感じてくれ」としか言いようがない(無責任)。

 

 

ただひとつ明確なのは、僕がデヴィッド・ボウイを尊敬する最大の理由は、死ぬまで創作者であり続けたその精神性にあるということです。

 

それは「憧れ」というチャチな感情ではなく、「見習いたい」という敬意の気持ちです。

 

デヴィッド・ボウイは、自分の確固たるスタイルを持たなかったアーティストでした。思索を重ねるごとに新たな境地へと達してゆく哲学者のように、ボウイは曲をつくるたびに誰も見たことのない世界を打ち出していきました。

 

 

ボウイはある意味で、自分の過去(業績)すら平気で切り捨ててしまえるのです。

 

言い方を変えれば、なんのためらいもなくファンを裏切るのです。

 

というのも、ある曲がヒットしたからといって、次もまた同じような構成で曲をつくるようなことをしなかったからです。彼はそういう男なのです。こんなこと、ふつうなかなかできないと思います。

 

だってそうでしょう? 成功したやり方を放棄してしまうなんて、非常識にもほどがあります。一見すると、リスクしかない。

 

しかしだからこそ変化を続けることができたのだし、だからこそのデヴィッド・ボウイだと言えるのでしょう。誰にもできないことをやったのだから、彼の一人勝ちです。

 

こうしたボウイの前衛芸術家的気質は、それこそ僕が前の記事で紹介した小説家ウィリアム・バロウズにルーツの端緒が見出せるのかもしれません。ボウイはバロウズの「実験的冒険心」を受け継いでいた可能性は十分にあるわけです。

 

 

そうそう、ボウイは親日家としても有名です。京都が大好きで、そこに滞在したときに多くのインスピレーションを受けたのことで、なんとじっさいに住んでしまったくらいです。

 

「寒い朝目を覚ますと、ここが京都のあたりで、禅の修行場だったらいいのになと思うことがよくある。ベッドを出てタバコに火をつけて、近所をひとまわりしてようやくその感覚が振り払えるんだ」

 

 

↑ボウイ in 阪急車両。彼の訃報をうけたあと、阪急電鉄は公式ツイートで追悼の意を示しました。泣かせてくれるじゃねえか(泣)

 

 

 

またボウイは、歌舞伎や「女形」のセンスに影響されてそれを自分の衣装に取り入れた――というのは、わりとよく知られたエピソードです。

 

とくに、「女形」の醸し出す中性的な魅力がたいそう気に入っていたそうな。1970年代にボウイがグラムロック街道をひた走っていた頃の姿恰好は、かなりの濃度でKABUKI要素をみることができます。

 

 

 

 

さて、そろそろ曲の話にいきましょう。

 

今回紹介する『Space Oddity』は、特殊な構成です。“トム少佐”と呼ばれる宇宙飛行士と管制塔との会話がそのまま詩になっているのです。

 

トム少佐。このキャラクターは、実質的にデヴィッド・ボウイの曲“四部作”に登場します。しかも地味にストーリーがあって、ちゃんと時系列でつながっています。

 

① Space Oddity

② Ashes to Ashes

③ Hallo Space Boy

④ Blackstar

 

 

の順番で、トム少佐が出てくるのです。

 

四番目の曲Blackstarは、ボウイの死の直前に発表された曲です。

 

そのPVの冒頭には、トム少佐の〇〇が……

 

はっはっは、ネタバレはしませんよ。それを知りたかったら、今回のSpace Oddityの和訳をみてくださいね。

 

 

そしてもしもトム少佐をめぐる物語に魅了されたなら、あなたはデヴィッド・ボウイの世界に足を踏み入れたも同然です。

 

 

 

ボウイはもうこの世にはいません。いまやファンのあいだでは、「彼はいまごろ火星にいるのさ」が合言葉のようになっています。

 

この意味がわかるようになれば、あなたはいっぱしのボウイ・フリークです。

 

そうです、きっとボウイは地球にすっかり飽きてしまって、いまは火星でひとり、トム少佐のお話の続きを書いているはずなのです。

↑火星に旅立つ二日前の写真。たのむ、行かないでくれ(泣)

 

 

 

 

Ground Control to Major Tom
「管制塔よりトム少佐へ」

 

Ground Control to Major Tom
「管制塔よりトム少佐へ」

 

Take your protein pills and put your helmet on
「プロテイン服用後、ヘルメットを装着されたし」

 

 

Ground Control to Major Tom (Ten, Nine, Eight, Seven, Six)
「管制塔よりトム少佐へ」(10, 9, 8. 7, 6)

 

Commencing countdown, engines on (Five, Four, Three)
「カウントダウン開始 エンジン点火」(5, 4, 3)

 

Check ignition and may God's love be with you (Two, One, Liftoff)
「点火確認 神のご加護を」(2, 1, 0)
 

 

This is Ground Control to Major Tom
「こちら管制塔よりトム少佐へ」

 

You've really made the grade
「やりました 発射に成功です」

 

And the papers want to know whose shirts you wear
「ところで、少佐がいまどんなシャツを着ているのかと記者が知りたがっています」

 

Now it's time to leave the capsule if you dare

「さあ いよいよカプセル切り離しですよ」

 


This is Major Tom to Ground Control
『こちらトム少佐より管制塔へ』

 

I'm stepping through the door
『ドアを開けて外に出たところだ』

 

And I'm floating in the most peculiar way
『滑るようにして道を歩いている なんとも奇妙な感覚だ』

 

And the stars look very different today
『たくさんの星がみえる 地上にいた頃とはまったく別物だよ』

 

For here am I sitting in my tin can
『まさにいまここで わたしはブリキ缶に腰かけているんだが』

 

Far above the world
『つまりは世界のはるか真上にいるというわけだ』

 

Planet Earth is blue
『そこから青い地球を眺めているよ』

 

And there's nothing I can do
『しかし、できることはもう何もない』

 


Though I'm past one hundred thousand miles
『わたしは100万マイルも彼方に来てしまったのだな』

 

I'm feeling very still
『なのにとても冷静でいられるんだ』

 

And I think my spaceship knows which way to go
『きっとこの宇宙船(ふね)は向かうべきところを知っているのだろう』

 

Tell my wife I love her very much, she knows
『どうか妻に伝えてくれないか 愛している、と 彼女だってわかってくれるさ』

 

 

Ground Control to Major Tom
「こちら管制塔よりトム少佐へ」

 

Your circuit's dead, there's something wrong
「回線に異常がみられます 何が起きているのですか」

 

Can you hear me, Major Tom?
「トム少佐、聞こえますか?」

 

Can you hear me, Major Tom?
「応答ねがいます、トム少佐」

 

Can you hear me, Major Tom?
「こちらの声が届いていますか?」

 

Can you hear…

「トム少佐、声が聞こえ……」

 

And I'm floating around my tin can

『いまわたしはブリキ缶のまわりを漂っている』

 

Far above the Moon
『月のはるか真上さ』

 

Planet Earth is blue

『そこで青い地球を眺めているよ』
 

And there's nothing I can do.

『わたしにできることはもう何もないんだ』