『僕らの時代のライフデザイン 自分でつくる自由でしなやかな働き方・暮らし方』米田智彦 | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

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『絶望名人カフカの人生論』『絶望読書』『絶望図書館』、NHK『絶望名言』などの頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)です。
文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

人間には、
見知らぬ土地に行こうとする欲求と、
同じ場所に留まろうとする欲求と、
その両方があるように思います。

だからこそ、
人間はこれほどまでに世界中に広がり、
最も熱い国とか最も寒い国のような、
生活に適さない土地でも、
そこに留まり続ける人がいるのでしょう。

日本人は農耕民族ですから、
同じ土地に留まることが大切で、
他の土地に行こうとする者は、
流れ者などと言われ、非難、差別をされました。
それでもなお、
山の向こうの知らない世界にあこがれて、
旅立って行く者たちもいました。

逆に、遊牧民は、
留まれるように立派な住宅と仕事を提供されても、
数か月後にはほとんどが旅立って行ったということを、
たしか安部公房がエッセイで書いていました。
でも、そんな遊牧民の中にも、
本当は1箇所に留まりたい人もきっといるでしょう。

今の日本では、
生まれた土地にずっと住み続けるのが立派という価値観の人たちと、
海外でもどこでもどんどん行って、移住したりするのが素敵という価値観の人たちと、
両方がいるように思います。
どちらもが認められているとすれば、
それはとてもバランスのよいことなのでしょう。

とはいえ、まだまだ、
土地を出て行く人たちに対して、
「捨てる」とか「逃げる」というような否定的な言い方がされたり、
逆に、生まれた土地にずっと居続ける人たちに対して、
つまらない人生を生きているかのような言い方がされたり、
お互いを認め合っているとは言えないところもあるように思いますが。

どちらもありだと思います。
どちらの人も必要ですし。

私自身は、
山の向こうに行きたいタイプです。
生えたところから動くことのできない植物を見て、
人間と生まれたからには、
別のところに旅立って行きたいと、
幼い頃から思っていました。
「根無し草」というような言葉は、
私にはとても魅力的でした。

ただ、現実には、
なかなかそう身軽にはいきません。
家とか、仕事とか、
さまざまなことに縛られます。
何本ものヒモで、ひとつの土地と結びつけられます。
また、そのヒモをすべて切ったのでは、
生きていくことが困難です。

私の場合は、
病気によっても、縛られました。
特殊な病気なので、
どこでも治療を受けられるわけではなく、
行動範囲は極端に制限されました。

それでも、せいいっぱい無理をして、
飛行機とインターネットのおかげで、
今は、沖縄の離島で暮らしていますが、
なかなか大変ですし、
不安定な状態と言えます。
これからどうするのか、
自分でもよくわかりません。


そんなとき、
Twitterで知り合った米田智彦さんから、
新刊をご恵投いただきました。


僕らの時代のライフデザイン 自分でつくる自由でしなやかな働き方・暮らし方/ダイヤモンド社

¥1,575
Amazon.co.jp

Kindle版もあります。


著者の米田さんが、
1年間、家やオフィスを持たずに旅して暮らす
生活実験プロジェクト「ノマド・トーキョー」を行って、
そこで出会った多くの人たちの新しい働き方・暮らし方を
まとめた1冊です。

「そんな生き方は、普通の人間には無理」
と言ってしまうのは簡単ですが、
読んでみたい魅力を感じる人も多いのではないでしょうか。

この本で、
個人的に面白いなーと思ったのは、
会社員か、フリーか、
お金をとるか、充実をとるか、
1箇所で生きるか、旅して暮らすか、
という二者択一で考えずに、
その「あいだ」でもいいんじゃないかと、
提案されていることです。

「あいだ」は、通常、
優柔不断、どっちつかず、不安定、
などと否定的にとらえられがちですが、
じつは、
「あいだ」というのは、
極端でなくて、実践しやすく、柔軟で、
なかなかいいのではないかと。

私の現状もこの「あいだ」なので、
励まされた気がしました。

フリーランスの人だけでなく、
何本ものヒモで1箇所に結びつけられている人にこそ、
読んでみていただきたいように思います。