いよいよ今夜11時から放送開始です。
第1回~第3回は、
私には関係ないのですが、
それでも、なんとなく緊張してしまうから、
不思議です。
川島先生がどういうお話をされるか、
とても楽しみです。
番組の中で紹介されるカフカの『変身』の文章は、
多分、川島先生が翻訳されたものが使われるのだと思います。
その点も楽しみです。
ちなみに、『変身』の翻訳が、
いったい何種類あるのかと言うと、
まず、1952年の高橋義孝さんの翻訳。
新潮社から出た最初の『カフカ全集』のもので、
新潮文庫に入っています。
(文庫と『カフカ全集』の「變身」を比べると少し訳文がちがっています)
私は中学生のときに、新潮文庫で最初に『変身』を読みました。
格調高い名訳です。
冒頭の一文を引用してみましょう。
「ある朝、グレゴール・ザムザがなにか気懸かりな夢から眼をさますと、
自分が寝床の中で一匹の巨大な毒蟲に変わっているのを発見した」(全集)
「ある朝、グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと、
自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した」(現在の文庫)
変身 (新潮文庫)/フランツ カフカ

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同じく1952年の中井正文さんの翻訳。
角川文庫に入っています。
1968年にご当人によって改訳されています。
中井正文さんは「寒菊抄」などの小説も書かれている方です。
「ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、
ベッドのなかで自分の姿が一匹の、
とてつもない大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた」
変身 (角川文庫)/フランツ カフカ

¥340
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そして1957年の山下肇さんの翻訳。
ブロッホの翻訳などもある方です。
岩波文庫に入っています。
「ある朝、グレゴール・ザムザがなにか胸騒ぎのする夢からさめると、
ベットのなかの自分が一匹のばかでかい毒虫に変わってしまっているのに気がついた」
変身―他一篇 (1958年) (岩波文庫)/カフカ

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次に1960年の原田義人さんの翻訳。
筑摩書房の「世界文学大系」のもの。
原田義人という名前も、カフカ好きには特別なものがあります。
若くして亡くなられていて、とても残念です。
「ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、
自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた」
これは今は青空文庫で読むことができます。
http://www.aozora.gr.jp/cards/001235/card49866.html
20年の空白があって、
1980年に新潮社の『決定版カフカ全集』(大好き!)が出ました。
この翻訳は、川村二郎さん。
「朝、胸苦しい夢から目をさますと、グレーゴル・ザムザは、
ベッドの中で、途方もない一匹の毒虫に姿を変えてしまっていた」
カフカ全集 1―決定版 変身/フランツ・カフカ

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1989年には、
『集英社ギャラリー 世界の文学』で、
城山良彦さんの翻訳。
『カフカ』(同学社)という著作もある方です。
「ある朝、グレーゴル・ザムザが不安な夢から醒めると、
ベッドのなかで、ものすごい虫に変わっていた」
ドイツ3・中欧・東欧・イタリア/集英社ギャラリー「世界の文学」〈12〉/著者不明

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21世紀に入り、
2001年に池内紀さんの翻訳。
あらためてカフカを有名にした、
大変な功績者です。
「ある朝、グレーゴル・ザムザが不安な夢から目を覚ましたところ、
ベッドのなかで、自分が途方もない虫に変わっているのに気がついた」
変身―カフカ・コレクション (白水uブックス)/フランツ カフカ

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2004年には、先の山下肇さんの翻訳を、
息子の山下萬里さんが改訂・改訳されました。
かなり訳文が変わっています。
今の岩波文庫の『変身』はこちらのほうの訳です。
ちなみに、萬里というお名前の由来は、
カフカの「萬里の長城」とのこと。
「グレゴール・ザムザはある朝、なにやら胸騒ぐ夢がつづいて目覚めると、
ベッドの中の自分が一匹のばかでかい毒虫に変わっていることに気がついた」
(「胸騒ぐ夢がつづいて」と、夢が複数形であることを訳文に取り入れてあるのが特徴的です)
変身・断食芸人 (岩波文庫)/カフカ

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続いて2007年には、
『カラマーゾフの兄弟』が大ヒットした光文社古典新訳文庫で、
丘沢静也さんの翻訳。
「ある朝、不安な夢から眼を覚ますと、グレーゴル・ザムザは、
自分がベッドのなかで馬鹿でかい虫に変わっているのに気がついた」
変身,掟の前で 他2編 (光文社古典新訳文庫 Aカ 1-1)/カフカ

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いちばん新しいのが、
2008年のちくま文庫『カフカ・セレクション3』の
浅井健二郎さんの翻訳。
『ベンヤミン・コレクション』も翻訳されている方です。
「ある朝、グレーゴル・ザムザが不安な夢から目覚めてみると、
ベッドのなかで自分が薄気味悪い虫に変身してしまっているのだった」
カフカ・セレクション〈3〉異形/寓意 (ちくま文庫)/フランツ カフカ

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以上で、翻訳の数は10種類になります。
他にも、見逃しているものがあるかもしれません。
ひとつの作品の翻訳が、これだけあるというのは、
そうそうないことではないでしょうか。
原文もちょっと見ながら読みたいという人には、
上記の中井正文さんによる、
対訳本もあります。
変身 (同学社対訳シリーズ)/フランツ・カフカ

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私も、今回の「100分de名著」の4回目で、
おこがましくも、
『変身』のほんの一部分を翻訳しました。
とても難しくて、
ここを選ぶんじゃなかったとさえ思いました。
原文が難しいわけではなく、
原文は平易で、シンプルで、意味もわかりやすいのですが、
日本語にするのがとても難しいのです。
困って、上記の翻訳のいくつかも参照させていただきましたが、
それぞれにすごくちがっていて興味深かったです。
ここでご紹介した第1文は、
あんまり差がないほうですが、
それでもそれぞれに少しちがいがあって楽しいですね。
あなたはどの翻訳で、
『変身』を読まれたでしょうか?