DVDボックス『五代目桂文枝全集』届く! 三代目カフカとか、二代目安部公房とか…… | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

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文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

新発売のDVDボックス
『五代目桂文枝全集』が届きました!

落語研究会 五代目 桂文枝 名演集 [DVD]/五代目 桂文枝

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高価ですが、
その価値は充分にあります。

桂文枝さんは、
若い頃、結核で闘病していたため、
上方落語の四天王の中では、
出遅れた感はありますが、
その「はんなり」と表現される芸は、
独特な味わいで、
この人のを聴くと、
他の人では満足できなくなる噺もたくさんあります。

たとえば、
「立ち切れ線香」
「天神山」
などは絶品です。
「親子茶屋」
「猿後家」
なども、
ちょっと他の人では出せない味があります。


今年の7月に、
桂三枝さんが、六代目桂文枝を襲名されるそうです。

そうなると、CDやDVDを買うときには、
何代目なのか、よく注意しなければならなくなります。

この落語や歌舞伎の世界の、
襲名という伝統は、
とてもいいものだと思います。
大きい名前を継ぐことで、
実際によくなる人もいますし。
枝雀さんなども、小米から、枝雀と名前を変えたことをきっかけに、
芸風も大きく変化しました。

ただ、まだ録音や録画のない時代には、
たとえば「桂文枝」という名前で聴ける噺家は、
いつもひとりだけだったわけです。
先代が存命の場合も、別の名前になっているはずで、
混乱するということはありませんでした。

ところが、こうして録音や録画が行われる時代になると、
なんとも、ややこしいことになってきました。
落語好きならともかく、
これから聴こうという人にとっては、
「○代目」まで区別するのは、かなり面倒です。

じつは私も間違ってCDを買ったことがあります。
六代目松鶴だと思って買ったら、
七代目だったり、
十代目馬生だと思ったら、
十一代目だったり。

ただ「正蔵が好き」と言われても、
録音や録画で八代目を聴いているのか、
当代を高座で聴いたのか、区別がつきません。

今はまだましですが、
これから時代が進むほどに、
同じ名前でのCDやDVDがたくさん存在していくことになり、
なかなか大変なことではないかと思います。
「オレは20代目が好き」
「わたしは21代目かな」
「それって、22代目と間違えてない?」
なんてややこしいことになりそうです。


小説の世界には、
この「襲名制度」はありません。
デュマのように、
親子で似たような小説を書いて、
大デュマ、小デュマと呼ばれているような例はありますが。

もし襲名制度があったら、大変でしょうね。
誰がカフカを継ぐかとか、
ものすごくもめそうです。
世界中に「○○国のカフカ」と呼ばれるような人がいますから。
ファンも黙ってないでしょうね。
「あんなやつは、三代目カフカとして、オレは認めない!」とか。

二代目ビートルズなんていうのも、
なんか事件まで起きそうな気がしますね。

落語の襲名でも、よくもめるようですが、
無理もないと思います。

ちなみに、
五代目古今亭志ん生という人は、
それまでの志ん生がすべて早死にで、
縁起のよくない名前だからやめたほうがいいと言われたのに、
人間は「どうせ死ぬんだから」と平気で襲名して、
志ん生という名前を、この上なく高め、
長生きしました。
たいしたものです。