『桂枝雀落語選集』が出ました!小米時代の貴重な録音!とっつきやすく、面白く、なおかつ本物! | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

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『絶望名人カフカの人生論』『絶望読書』『絶望図書館』、NHK『絶望名言』などの頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)です。
文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

桂枝雀の新しいCDボックスが発売になりました!

企画が変わっています。
これまでの枝雀きCDやDVDは、
円熟期のものばかりでしたが、
今回は、
枝雀がまだ小米という名前だった頃からの、
初期の音源が集めてあります。


枝雀は小米の頃は、
かなり芸風が異なります。
まだ、いわゆる枝雀になる前なのです。

カフカで言えば、
『観察』にあたります。
まだカフカではないけれども、
カフカを好きになってからだと、
これもまたなんとも言えず、よさがある。

小米時代の枝雀にも同じことが言えます。
この時代のほうが好きという人もいることでしょう。
満開の花よりも、
つぼみや七分咲きのほうがいい、
というような。

カフカが「判決」によって、
カフカになるように、
枝雀も、枝雀を襲名することによって、
あの芸風を確立していきます。
その様子を、このボックスで聴くことができます
とても貴重なものが出ました。

1965~1980 NHKラジオアーカイブスより「桂枝雀 落語選集」/桂枝雀

¥18,900
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私はじつは枝雀が長い間、
あまり好きではありませんでした。

「スビバセン」などの面白い言葉遣いや、
面白い動作、
激しい動き、
そういうもので笑わせるのは、
噺で笑わせるのではないから、
邪道だと思っていました。

枝雀が人気が出るほどに、
むしろ、落語が誤解されるような気がして、
反撥を感じていました。

米朝が師匠なのに、
なぜ弟子がこうなってしまったのか、
とさえ思っていました。

でも、ずいぶん後で気づきました。
枝雀の落語が、いかにきちんと噺を語っていることか!
他のことは、その上での味付けであって、
これほど見事に噺を語れる人は、ちょっとありません。
さすがに米朝の弟子なのです。

そして、それまで落語に興味のなかった多くの人を、
落語にひきつけました。
もちろん、一過性で終わった人もいるでしょうが、
その中から、本当の落語の面白さに気づく人もたくさんいました。
今の落語の人気の基礎は、
枝雀さんが築いたと言ってもいいかもしれません。

間口の広さ、
とっつきやすさ、
誰にでもわかる面白さ、
その上で、じつは本物の醍醐味が詰まっている。
素晴らしい人だったと思います。

今では枝雀さんをとても尊敬していますし、
なんて惜しい人を失ったのだろうと、
残念でなりません。
落語を聴く度に、そのうまさにうなってしまいます。


私の1冊目の本の読者の方の中には、
2冊目での変貌に驚かれた人もいらっしゃいました。
しかし、
そこには、枝雀のような人の偉大さを知ったということも、
大きく影響しています。

とっつきやすく、
面白く、
なおかつ本物であることは、
とても難しいことですが、
少なくとも目指したいとは思っています。