蔵出し!米朝全集 [DVD]/桂米朝

¥27,930
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桂米朝師匠のDVDは、
『特選!!米朝落語全集』全30集がすでに出ていますが、
これは63歳~67歳の間のもの。
今回は、50歳の頃の映像もあって、
とても貴重です。
落語に、
「借金を質に置いても」買わなければならないという、
無茶な言い草がありますが、
高くても、これは無理しても買いです。
落語も、カフカと同じで、中学生のときに出会いました。
桂米朝さんのカセットテープでした。
それまでテレビで落語を観たことは何度もありましたが、
まったくちがう世界に、びっくりしたものです。
そして、よりいっそう聴くようになったのも、
やはりカフカと同じく、大学生のときに、入院してからでした。
点滴中や、消灯後などの、本が読めないときには、
ウォークマン(懐かしい!)で、
落語を聴きました。
たんなるお笑いなら、とても聴く気がしなかったでしょう。
実際、テレビのバラエティー番組などには、
この時期にはまったく笑えなくなっていました。
健康な人たちは無心に笑うのだろうけど、自分は……と思うと、
暗くなってしまうくらいでした。
でも、落語はちがいました。
ギャクではなく、「お話」なのです。
実際、落語は、「噺(はなし)」と呼ばれますが。
子供の頃には昔話を聴いたりするように、
大人になっても、お話を語り聴かせてもらうのは、
じつに楽しいものだということを知りました。
今は語り聞かせというと、
相手は子供ということになっていますが、
昔は世界中に「語り部」がいて、
大人がみんなそれを聴いていたのです。
オルハン・パムクの小説『わたしの名は紅』を読むと、
昔のイスタンブールでは、
カフェに入ると、噺家のような人がいて、
物語を語っていたようです。
こんなカフェがあったら、私なんか大喜びで通ってしまいますが。
(なお、この小説はとても面白いです!
また別の機会にご紹介したいと思います)
「千夜一夜」なども、
大人が大人に語って聴かせていたのがそもそもで、
それが文字に記録されたものです。
語り部は、今やもうアフリカの一部くらいにしか、
いないのではないでしょうか?
日本の落語家は、
世界的にも貴重な、
今も現役の「語り部」だと私は思います。
大阪では一時期、落語が滅びかけました。
それを復活させたのが、
米朝さんたちです。
とくに米朝さんは、
「上方落語中興の祖」と言われています。
(亡くなった立川談志師匠の言葉です)
米朝さんが、桂米團治に弟子入りされたとき、
「末期哀れは覚悟の前やで」と言われたそうです。
でも、その一方で、米團治師匠は、
「これほど洗練された芸はないんやさかいな。廃れてしまうことは絶対にない」
ともおっしゃっていたそうです。
その言葉通り、落語が廃れることはありませんでした。
しかし、それも米朝師匠たちがいたからこそで、
よくぞ、滅びかけている時期に入門して、
復活させてくださったと、
落語ファンのひとりとして、
いつも感謝している次第です。