なぜ「絶望の名言集」を?(その2)カフカの手紙や日記の面白さ! | 「絶望名人カフカ」頭木ブログ

「絶望名人カフカ」頭木ブログ

『絶望名人カフカの人生論』『絶望読書』『絶望図書館』、NHK『絶望名言』などの頭木弘樹(かしらぎ・ひろき)です。
文学紹介者です(文学を論じるのではなく、ただご紹介していきたいと思っています)。
本、映画、音楽、落語、昔話などについて書いていきます。

「絶望の名言集」を出したのには、もうひとつ理由があります。

それは、
カフカの日記や手紙が、
とつてもなく面白い!
ということです。

カフカはかなり有名な作家ですし、
読んだことはなくても、
名前だけは知っている、
『変身』の「ある朝、目が覚めたら、ベッドの中で虫になっていた」という出だしだけは知っている、
という方はけっこうおられます。

それで興味を持って、
何か読んでみようという気になったとしても、
読むのは、まず小説でしょう。
当然です。
まずは、最も有名で、薄くて読みやすい、
『変身』を読んで、
それで面白いと思ったら、
さらに他の作品に進んで行く、
という人が多いのではないかと思います。
私もそうでした。

しかし、日記や手紙まで読む人は、
あまりいないでしょう。
よほど熱心なファンか、
あとは研究者くらいなもので。

実際、面白い小説を書く作家でも、
日記や手紙となると、
作品ではないですから、
あまり面白くないことが多いものです。

私も最初、
カフカの日記や手紙は、
読みませんでした。

カフカの日記や手紙は膨大で、
全集の半分を占めていたので、
買わずにすませれば、
ずいぶん節約になる、
という実際的な問題もありました。

ところが、あとで、カフカの手紙の一節を目にして、
飛び上がるほどビックリしました。
ものすごく面白いのです。

カフカの書くものは、
小説だけでなく、
他のすべての文章が、
まぎれもなくカフカで、
なんとも面白いのです。

落語の名人、
古今亭志ん生の、
家庭での様子を録音したテープを聴いたことがあります。
家でも、
「おいっ、そこの醤油をとってくんねえ」
「あいよ」
なんて、落語そのものの会話をしていました。
これじゃあ、息子が2人とも名人になるわけだ、
と思ったものです。

ちょっとわかりにくい例えだったかもしれませんが、
カフカの場合も、
何を書いても、つねにカフカなのです。
まるで、さわるものがすべて黄金に変わる王様のようです。

全集の日記や手紙の巻を、
あわてて探しました。
すでに絶版になっていて、
かえって何倍もの値段と、
大変な労力をかけて、
ようやく手に入れることに。

それ以来、折にふれ、
カフカの日記や手紙の
適当なところを開いては、
読んでいます。
じつに、いいです!

このよさを、もっと多くの人に、知ってもらいたと思いました。
知らないのは、もったいない!と。

ところが、今、
カフカの日記や手紙の邦訳は、
古本でしか手に入りません。
それも入手困難ですし、かなりの高値です。

なんとか、日記や手紙の面白さの、
エッセンスだけでもお伝えできないものか……。
それが、今回の本を出した動機のひとつです。

で、それがなぜ「絶望の名言集」になるのかと言うと、
カフカの日記や手紙の名言を集めると、
自然と、「絶望の名言集」になってしまうのです(笑)


絶望名人カフカの人生論/フランツ・カフカ

¥1,500
Amazon.co.jp