抗うつ剤や睡眠薬、抗不安薬など様々なタイプの向精神薬が存在しますが、種類や使用法によっては、違法ドラッグと同じような効果が現れるため、違法ドラッグの代わりに向精神薬を乱用する人が増えているのです。
向精神薬は医師の診断で患者に処方されるものなので、一般の人が入手することはできない仕組みになっているのですが、実際にはインターネットなどで向精神薬の違法売買が行われています。これはなぜでしょうか。
実は生活保護受給者の中で、精神科に通院している人の一部が、複数の医療機関で向精神薬の処方を受け、余分な向精神薬を外に転売している、もしくは転売させられているのです(生活保護受給者は福祉事務所が発行する医療券を使用すると医療費が無料になります)。
2010年4月には、生活保護受給者が病気を装って無料で入手した向精神薬を安値で買い取り、インターネットで転売していた男性が逮捕されるという事件が起こっています。この男性は、生活保護受給者数十人に向精神薬を不正に入手させていたということです。
この事件を受けて厚生労働省が2010年7月に行った緊急調査によると、2010年1月の1ヶ月間に複数の医療機関から過剰に向精神薬を入手していた生活保護受給者は2746人に上ることが分かりました。
このようなかたちで闇の流通経路に乗った向精神薬は、何人かの密売人を経由していく過程でマージンが上乗せされ、末端の乱用者の手に届くときには、仕入れ原価の数倍にまで跳ね上がります。
警察庁が発表する向精神薬の押収量資料や平均的な1錠あたりの末端価格などをもとに、向精神薬の闇マーケットの大きさを推定すると、2010年時点で約60億円にもなります。
BRICs経済研究所 代表 門倉貴史