團十郎の大きな存在が、熱く歌舞伎座を包む『通し狂言 星合世十三團』 | ふうせんのブログ

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小林蕗子のブログです。2013年5月に始めたときはプロフィールに本名を明示していましたが、消えてしまいましたので、ここに表示します。。
主に歌舞伎や本のことなどを、自分のメモ的に発信したいなあって思っています。よろしく!!

7月3日、歌舞伎座・昼の部『通し狂言 星合世十三團(ほしあわせじゅうさんだん)』をみてきました。
前回のブログの冒頭に書いたように、
「團十郎が『義経千本櫻』の13役を、すっかり自分のものにしていました。役それぞれの人物を、慈しむように、しかも精一杯の力を込めて演じていたのが、胸に響きました。詳しいことは後日に綴ります。」

この舞台についての想いを綴りたいと思います。
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7月3日、不安と期待を膨らませて、歌舞伎座・昼の部に行きました。
私が大好きな『通し狂言 義経千本櫻』の主要13役を、早変わりを次々と駆使して、一人で演じ切るという、命がけともいえるほど身体を張っての芝居。
しかも、戦いで敗れし者たちのプライド、矜持を、美しく描き出すことで、破れし者たちの魂を鎮め、昇華させていく舞台ですから、精神的にも強くあらねば演じ切ることが出来ません。

平家方一族だけではなく、源氏方の義経一行も破れし者たち
左大臣藤原朝方/卿の君/川越太郎/武蔵坊弁慶
渡海屋銀平実は新中納言知盛/入江丹蔵
主馬小金吾/いがみの権太/鮨屋弥左衛門/弥助実は三位中将維盛
佐藤忠信/佐藤忠信実は源九郎狐/横川覚範実は能登守教経
さらに加えて、柿色裃の口上姿の團十郎。14人の早変わり!!


まず最初の感想は〈デッカイ海老蔵から、揺るぎなく大きな存在の團十郎になった!!〉。
その上で、團十郎という名跡の重さを吹き飛ばすように、「軽やかな早変わり」と「古典歌舞伎の魂が生きる重厚さ」とが、歌舞伎座の観客の心を熱くしていく。
初日からまだ3日目なのに、團十郎は観客の心を掴んでしまった。
歌舞伎座は、團十郎の熱い心と観客の熱い心が一体になった!!


〈かつての7月歌舞伎座、座頭として古典歌舞伎を熱く演じた、三代目猿之助の再来?!

 いや、三代目さんに守られている!!!〉
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「早変わり」の言葉で気が付くように、7月歌舞伎座は今は亡き3代目市川猿之助の熱い心を思わせる舞台となりました。
三代目猿之助は、1960年代は低迷していた歌舞伎座公演を改革するべく、
1970年から73年までは17代目中村勘三郎などと7月歌舞伎座公演を成功させ、
1974年から2003年までは猿之助の責任興行として7月歌舞伎座を確立し、その揺るぎない実力と人気を誇っていました。
(※ なお、三代目猿之助といえば、スーパー歌舞伎ばかりが代表作のように思われているようですが、古典歌舞伎は広範囲に及んで舞台を勤めています。特に歌舞伎座で演じたのは古典だけでした。そうです、古典を熱い心で演じていたのです)

2004年からは3代目猿之助は闘病生活となり、(年によって例外はありますが、)坂東玉三郎が座頭で市川右近(現・右團次)を中心とする澤瀉屋一門を率いての7月歌舞伎座となり、そこに海老蔵(現・團十郎)も参加していました。

そのご縁で海老蔵は、『義経千本櫻』の〈四の切〉の狐忠信を三代目猿之助(実演は右近)から教わることができ、今月の狐忠信も澤瀉屋の型で演じています。
また、『慙紅葉汗顔見勢(ハジモミジアセノカオミセ)』通称「伊達の十役」も教わることが出来、2010年1月の新橋演舞場で初演。

海老蔵の「早変わり」への挑戦が始まったのです。

2012年7月、四代目市川猿之助襲名など澤瀉屋四名の襲名公演が、6月に続いて新橋演舞場(歌舞伎座は改築中)で開催されました。
その時、三代目猿之助あらため二代目市川猿翁襲名披露の演目『楼門五三桐(さんもんごさんのきり)』、猿翁演じる真柴久吉に対する、石川五右衛門は海老蔵が勤めました。

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2016年の7月歌舞伎座は玉三郎の手を離れ、海老蔵(現・團十郎)と四代目猿之助の共同公演でした。あの時の『通し狂言 柳影澤蛍火(やなぎかげ さわのほたるび)』は忘れられない舞台です。
2017年から2019年の7月歌舞伎座は、昼の部・夜の部ともに海老蔵の責任公演でした。
ここでは、猿之助歌舞伎の想いを継承するような、古典歌舞伎復活狂言(新作)が上演されました。今月の「筋書」(=プログラム)で、宗家藤間流の当代藤間勘十郎が書いているように、
織田紘二、石川耕士、川崎哲男、藤間勘十郎の四人の演出家で作り上げた三部作。

『通し狂言 駄右衛門花御所異聞(だえもん はなのごしょいぶん)』(2017年夜の部)、
『通し狂言 三國無雙瓢箪久(さんごくむそう ひさごのめでたや)』(2018年昼の部)、
『通し狂言星合世十三團(ほしあわせじゅうさんだん)』(2019年夜の部)
この3作のうち今月は、『十三團』の再演です。

藤間勘十郎は言います。「(前略) 私も当初改めて『義経千本櫻』の面白さを痛感した作品でもあった。今回再演にあたり、さらに練り上げられていて、幕が開くまえから既に楽しみである」
織田紘二、石川耕士、川崎哲男からのメッセージも「筋書」に掲載されて、夫々の想いが胸に浸みます。
この四人の演出家だけではなく、数えきれないほどの多くの人々がこの芝居に関わっています。

映像も駆使された舞台装置の演出も素晴らしかったし、音楽も竹本が基本でしたけれど、謡曲の方々も入られていたし、……


今回は4時間半かけての「通し狂言」で13役の早変わりですから、團十郎はマラソンランナー以上の体力をつかっているのではないかしら。

その13役の替え玉となる役者さん、衣裳や舞台装置の裏方さんも、團十郎に伴走するように、体力勝負ですね。

休憩時間も、團十郎だけではなく替え玉の役者も、衣裳を替え、化粧を替え、もろもろの準備をしているんですね。

その歯車が一秒もズレることなく連携プレーされて、大きな芝居が出来上がっていることが、客席から察知され、しみじみと歌舞伎を創る大きな力に感じ入りました。
とにもかくにも、凄い舞台と言うしかありません。
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まだ書きたいのですが、記録として貼り付けたいサイトを添付します。
 

 

【舞台映像】歌舞伎座『星合世十三團』ダイジェスト映像


市川團十郎 1人13役の裏側 スピード勝負の衣装替えで爪痕がついても“無”

これは、7月10日、日本テレビ・everyで放映されたもので、
團十郎へのインタビューが中心ですが、舞台や裏方の奮闘映像もあり、迫力が伝わります。

素顔の当代團十郎、頬の張り具合など、先代さんに似てきました。

義経千本桜の世界を十三代目團十郎が13役早替りで魅せる『星合世十三團』 歌舞伎座『七月大歌舞伎』昼の部観劇レポート

これは、先月も紹介したeプラスが管理するサイトspiceの観劇レポートで、歌舞伎美人のサイトより丁寧に、しかも躍動的に書かれています。舞台写真もたっぷり。筆者は塚田史香。

 

今夜は、ここでブログアップします。

次回は、今後に望むことなど綴りたいと思います。


※ なお、敬称についてですが、プロの芸術家や文筆家の方は広い意味での公人ですので、舞台そのものや作品について記す時は、私は敬称を付けません。昔からの慣例です。プライベートな内容と思われる時は「さん」の敬称を付けます。よろしくご了承ください。