『御所五郎蔵』は、なんといっても仁左衛門!! | ふうせんのブログ

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小林蕗子のブログです。2013年5月に始めたときはプロフィールに本名を明示していましたが、消えてしまいましたので、ここに表示します。。
主に歌舞伎や本のことなどを、自分のメモ的に発信したいなあって思っています。よろしく!!

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6月8日、歌舞伎座・夜の部に行きました。

一番の目的は片岡仁左衛門の『御所五郎蔵』。
二番目は『一本刀土俵入』、市川猿之助のお蔦、。
ということで、最初の演目『鎌倉三代記』はパスしました。


待ってました!!『御所五郎蔵』、仁左衛門!!

五郎蔵は、絶対に仁左衛門できゃ駄目なんです。
仁左衛門の五郎蔵を観なければ、『御所五郎蔵』を観たことにはなりません。
仁左衛門への期待は、5月23日のブログ【今年は、仁左衛門が嬉しい!!】に書きました。
 

『御所五郎蔵』の舞台は京の五条の廓ということですが、芝居の舞台は華やかな吉原・仲之町の賑わい。
客席内上手に仮花道が作られて、本花道から市川左團次(星影土右衛門)、仮花道から仁左衛門(五郎蔵)の登場。それぞれ5人ずつ子分を従えています。
〈もしかしたら私、『御所五郎蔵』で両花道を使うのは、初めて観るかもしれない。とっても華やかで、素敵!!〉

私の席は、3階1列目10番。1階ではないのが残念でしたけれど、仁左衛門と左團次の姿はしっかり観ることが出来ました。
吉原を闊歩する男伊達の粋と威勢、仁左衛門の声が華やかにお客様の心を包んでいきます。
五郎蔵に対抗する土右衛門の左團次も、なかなかの存在感。
最近〈左團次はちょっとお疲れ?〉って心配したこともありましたけれど、今月は仁左衛門に負けてはいられない!
本舞台に並んでからの、二人の立ち姿が絵に描いたように決まっている!!
白地に手描きの墨絵の衣装を着こなす仁左衛門が、スッキリとカッコよい!! 

吉原で信頼される男伊達は、美しくて粋でイナセでカッコイイだけではなく、強くなきゃ駄目。
ならず者の入り込む江戸、吉原を闊歩するだけで花街の治安が維持出来る風格を持つ男。
そして『助六』にも出てきたように、花魁たちからの「煙管の雨が降る」ほどモテル男、あるいは信頼される男。
五郎蔵はまさにそういう男伊達。
仁左衛門の五郎蔵は完璧に美しくて、立派!! だから、仁左衛門でなきゃ駄目なんです。

なんでこんなに力説(笑)するかというと、是非とも今月の『御所五郎蔵』を観ていただきたい、その一心です。
と言いますのは、この数年で、五郎蔵像が変わってきているように思われるんです。
『御所五郎蔵』は、ダメ男の物語だというふうに。

たしかに、何の解説もみずに、縁切りの場だけを観ると、
〈五郎蔵は身分もお金もなくて、女房を廓に売るような男なのに、格好だけつけている。しかもニセの縁切りと知らないとは言え、女房の傾城皐月から退き状と手切れ金を突き出されて、怒り狂い、キレてしまう男。それで女房の皐月を殺すつもりが、逢州さんを殺してしまったという、ダメ男の悲劇〉というふうに思われるかもしれません。

ここに至るまでの経過は、ほんとは長い長い話らしいのです。
2003年6月歌舞伎座では、「時鳥殺し」と「御所五郎蔵」を通しで上演しています。
五郎蔵は仁左衛門、皐月は坂東玉三郎、土右衛門は左團次、逢州は片岡孝太郎。
それをご覧になった方のブログがありました。
【曽我綉侠御所染 軽快な渡りぜりふ 2003.6.16】

こちら→http://www5e.biglobe.ne.jp/freddy/watching36.htm
ここに書かれている「あらすじ」でもまだまだ足りないぐらい、入り組んだ話らしいのですが、お読みいただけると概略は掴めます。

ただし、ここで大事なのは、歌舞伎の筋立てには強引なところがあって、理屈で考えると歌舞伎の美を見失うということです。
仁左衛門は、毎日新聞2017年5月11日朝刊の記事
【Interview「片岡仁左衛門 なりきりつつ、客観的に 六月大歌舞伎で御所五郎蔵」】こちら↓https://mainichi.jp/articles/20170511/dde/012/200/002000c
この中で、こう語っています。(この記事は是非、全文お読みください)
「歌舞伎で『縁切り』される男は大体アホですが、そうと感じさせずに怒りの美を見せる場面です。怒っている姿もかっこいいと思われるように作ることが必要です。大切なのは役の空気です」

そして、縁切りの場面では、武士だった昔からの宿敵・土右衛門とその子分が、五郎蔵を罵ります。
今のサラリーマン社会なら、耐えるか、あるいは上手にいなせる人が評価されるのでしょう。
でも、花街の美学では、「売られた喧嘩は買わねばならぬ」。それが、男伊達が「男を立てる」ということ。
仁左衛門の五郎蔵は、怒りに怒り、花道では睨みをきかせた啖呵を切って、去っていきます。

こういうピュアな感性が男伊達。

縁切りの場で、耐える美しさを出すのは、皐月。中村雀右衛門、情の濃さもにじみ出て、よかった。
縁切りの場で、怒りの美を見せるのは、五郎蔵。仁左衛門、最高!!
縁切りの場で、体当たりで五郎蔵を静めるのは、逢州。若い中村米吉が、舞台度胸の良さで頑張りました。

まだまだ書き足りませんが、ここで終わります。
なるべく要点だけ書こうと思って、けっこう時間がかかりました。

今回は、期待していた「五郎蔵内切腹の場」がなくて、とても残念でしたが、それでも仁左衛門に魅了されました。

『御所五郎蔵』は、歌舞伎の美に魅了される演目です。
それができるのは、今のところ仁左衛門だけです。
仁左衛門の『御所五郎蔵』は、歌舞伎座では2007年から10年立って、やっと登場。
今後、観られるかどうか分りません。必見です。

また、両花道の演出は、めったに観られません。
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仁左衛門は最近では、上方のものや、真山青果の「元禄忠臣蔵」のように、理屈で攻めるセリフ劇を演ずることが多いのですが、
江戸の戯作者、鶴屋南北や河竹黙阿弥などの生粋の江戸狂言も素晴らしいんです。声よし、姿よし。
私自身、観そこなって、〈あー、観たかったなー〉と悔やまれる演目がいっぱいあります。
だから、『御所五郎蔵』は是非観てほしいと思うのですね。
先ほどの毎日新聞のインタビュー記事に
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7月は大阪松竹座で「盟(かみかけて)三五大切」の源五兵衛、10月は東京・国立劇場で「霊験亀山鉾(れいげんかめやまぼこ)」の藤田水右衛門をつとめる。共に鶴屋南北作品だ。源五兵衛は恋の闇に落ちて殺人を行うし、水右衛門は情け容赦のない悪人である。
 「自分と役にギャップがあればあるほど楽しいですよ。役のちょっとしたところを拡大し、隠れているものを引っ張り出すんです。ただし、あまり自分がはまり込んでお客様に伝わらなかったらだめです。そういうことを頭に入れてしまえば、自然に流れていくものです」というのが演じる上での極意である。―――☆
こういう悪人ものも、東京では上演されなくなっていますね。時代のながれですかねー。
7月は大阪まで行きます。
7月の大阪松竹座のチケ、土・日は、仁左衛門の出る夜の部の1等席から売り切れが出ているようで、さずがに大阪ですね。

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大きな話題を呼んだニコニコ超会議の【超歌舞伎】、サイトはこちら→http://www.chokaigi.jp/2017/booth/cho_kabuki.html
中村獅童が演じた八重垣紋三は、御所五郎蔵のかっこいい姿そのものでした。獅童、すっごく良かったー!!
敵役の蔭山新右衛門は星影土右衛門でしたね。演じたのは澤村國矢。國矢は、尾上松也の自主公演「挑む」のメンバーで頑張っていて、私、思い入れがいっぱいあって、感激しました。

市川海老蔵が、春の巡業に続いて10月11月にも実施する「古典への誘い」の巡業。サイトはこちら→http://www.zen-a.co.jp/koten2017-autumn/
ここで演じられる『男伊達花廓(おとこだてはなのよしわら)』も、御所五郎蔵のかっこいい姿を長唄舞踊にしたものです。

二人ともまだ『御所五郎蔵』は演じていないけれど、いつか観られる日を愉しみにしています。

今日は、海老蔵のABKAI『石川五右衛門外伝』、夜の部に行きます。
「ねぶたも再び登場、ABKAI 『石川五右衛門 外伝』」ということで、愉しみです。
歌舞伎美人のサイトはこちら→http://www.kabuki-bito.jp/news/4080

※ なお、敬称についてですが、プロの芸術家や文筆家の方は広い意味での公人ですので、舞台そのものや作品について記す時は、私は敬称を付けません。昔からの慣例です。プライベートな内容と思われる時は「さん」の敬称を付けます。よろしくご了承ください。