小説『オレ、トマト』3
徳村慎
オレたちは旅に出た。
オレ、トマト。ネギ。氷の美少女。そして秋刀魚。
オレたちは野菜と魚と氷だ。でも、みんな冷凍庫村で暮らしていた。
冷蔵庫村では人間に食べられることで天国へと行けるのだと教えられる。
ハッキリ言ってヤダね。
だからオレたちは旅に出たのだ。
冷蔵庫村から西へと進む。台所を越えて、勝手口から出て車庫へ。さらに進むと小さな畑があって、オレたちはコンクリートの岩地帯にたどり着いた。
川が見える。南西に向かって流れているようだ。
「川だ」
「川だね」
「川ですね」
「川やな」
口々に言う。
トマトが言った。
「なぁ……。オレさぁ。こんな苦労して旅しなくても良いような気持ちになってきてんだよね。別に畑に捨てられた野菜とかもあるじゃん?」
他の3人は無言でトマトの話を聞いている。
「オレ、人間の可愛い美少女に生まれたかった。そうすりゃ、モテモテだよ。こんな川なんかさぁ。ちょっとそこまで乗せてってよ、って言やぁ、絶対男たちは乗せてってくれると思うんだよね。旅なんて苦しいのじゃなくて、男たちにチヤホヤされながら出来るんだぜ?」
ネギが言った。
「お前。ブレてんなぁ。僕らは人間から逃げるために旅してんじゃないか」
トマトが涙を流して言う。
「もう人間に食べられることなんてねーよ!……でも辛いんだよ!……食べられないのもよ!……やっぱ、人間に食べられるのって天国だったんじゃないかよぉ?」
秋刀魚が言う。
「確かに、もう人間に食べられることはないよね」
トマトが言う。
「だろっ?……人間に食べられることなんてねーよな!……だってオレたちゃ、地面に落ちてる状態なんだぜ?……冷蔵庫に入ってないものなんて誰も食わねーよ!……そこらの野生動物ならどーかと思うけどさ!」
静かになる4人。
トマトが言う。
「なぁ。冷蔵庫村に戻っちゃう?」
ネギが鼻水と涙と唾を飛ばしながら言う。
「バッカ野郎ぉ!……あの村にゃ戻れねーよ!……だって僕らは、あの村から出てきたんだぜ?……最先端の考えなんだっぽいアピールをして、出てきたんだぜ?」
最後まで
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