小説『ハリウッド映画ばりの嘘はお好き?』 | まことアート・夢日記

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夢日記、メタ認知、俳句モドキ、詩、小説、音楽日記、ドローイング、デジタルペイント、コラージュ、写真など。2012.1.6.にブログをはじめる。統合失調症はもう20年ぐらい通院している。

小説『ハリウッド映画ばりの嘘はお好き?』
徳村慎


「おじさんと行った旅行でね。パンダのぬいぐるみを中国で買ったんだよ。そのぬいぐるみが途中で寄ったアマゾンでワニに食べられて下剤を飲ませたら現地の可愛い女の子が出て来て。その女の子と僕とは恋に落ちるんだけど実は女の子は天才ハッカーでアメリカの軍事機密を盗んじゃっててアメリカ軍を敵に回して戦う事になったんだけど。それでね……」

まだ嘘が続くのか、コイツ。18歳にもなって嘘ぐらいしか特技が無いなんてな。私は深くため息をつく。

「アメリカ軍をやっつけるためにシナイ山付近に行ってノアの方舟を発掘したんだ。ノアの方舟を改良したのはエジプト考古学者。空を飛べるんだぜ。アメリカ空軍の戦闘機の攻撃は全てエジプト古代の失われた科学技術のおかげでバリアで跳ね返してたよ。すごいんだ。こっちは何も攻撃しないのに向こうが勝手に跳ね返った弾で墜落してた」

この男の子はシェーラザッドの生まれ変わりだろう。まだ嘘が続くのか。私は酒灼(や)けした暗い声で「それで?」とうながす。

「アメリカの軍隊と戦闘中にテロ集団のISが北朝鮮と手を結んでアメリカ大陸に攻めてきたんだ。アメリカの軍隊はノアの方舟で大打撃を受けたあとだったから、さあ大変。アメリカの大学がカリフォルニア工科大学を中心に結集して古代の恐竜たちを生き返らせて北とISの連合テロ軍をやっつけようとしたんだ。一度は連合テロ軍は撤退したんだけど、巨大竜巻キャサリーンと巨大地震が起きてアメリカは大打撃さ。壊滅寸前のとこで食糧を奪い合う暴動がアメリカの各地で起きた。それに恐竜たちを脳波でコントロールするコンピュータが大災害で壊れてしまったんだ。そこで僕たち方舟が大量の食糧を空から届けて恐竜たちを船の中の檻に閉じ込めて解決したんだよ」

私は頭痛がするので「へぇー」としか答えられない。コイツの話を聞いていると余計に頭痛がひどくなりそうだ。

「すると連合テロ軍の司令部がロシアに古代イスラムの石板の情報を提供して、ロシアは巨大な機械を作り上げた。それが地球の地殻に人工地震を与えて地軸をジャンプさせる機械だったんだ。僕たちはロシアに方舟で急いだ。しかし、連合テロ軍に寝返った船長がエネルギー体である水晶ドクロを持ち出して逃げてしまったから方舟はとまってしまった。地軸がジャンプさせられて氷河期がやってきた。世界のセレブたちは痩せた体形だろ?……だから知識の無い肥満の一般人が生き残る結果となった。このままでは科学知識は失われて地球は滅亡するに違いない。ロシアのお偉いさんがたはその頃宇宙へと逃げてたのさ」

私は返事をするのも煩わしく「ほう」と相槌(あいずち)をうつ。

「ロシアの国お抱えの天才科学者たちと一部の政治家たちは人類の食糧問題の解決に向けて人類を減らそうと考えたんだ。残念なことに、その通りになってしまった。生き残った地球人たちはインカのピラミッドが実は宇宙船であるとようやく古代の文字を解読した。ロシア人たちは火星にたどりつき、火星を地球のような環境へと変えようとしていた。つまり人類は火星人と地球人に分かれてしまったんだ」

私は「ふーん」と言った。

「インカのピラミッドにはすでに連合テロ軍の生き残りが来ていた。そこで棍棒(こんぼう)や槍(やり)や弓矢で戦うことになった。僕はハッカーの少女と再会した。少女もともに戦った。ようやくインカのピラミッドを僕たちのものにした。少女と僕はキスをした。その時、連合テロ軍の生き残りが死ぬ間際に放った毒の弓矢が彼女の背中から心臓に刺さった。僕は涙を流して、必ず平和を手に入れると誓ったんだ」

私は「へぇー」と言った。

「それからインカのピラミッドは宇宙船に変形して僕らを乗せて火星を目指した。しかし、そこには人間のようで何でも食べる怪物エイリアンが街をつぶしてしまっていたんだ。生き残りのロシア人少女はすごく怯(おび)えていた。僕は大丈夫だよ、と抱きしめた。少女は僕に爪を立てて噛み付いた。けれど僕は抱きしめ続けたんだ。やがて少女は僕に心を開いた。はじめて人間らしい人間に会ったとも言っていた。僕は新しい恋をしたんだ」

私は「ほう」と言った。

「だけどある日少女は怪物エイリアンに左腕を食いちぎられた。出血多量で危なかったけど一命をとりとめた。でも少女はショックで心を閉ざしてしまった。僕は恋をあきらめるしかなかった。もう誰にも恋なんてしないと心に決めたんだ。怪物エイリアンをロシア人の生き残りたちとピラミッドで地球からやって来た者たちとの共同で退治することになった。しかし、最後の一匹というところで怪物エイリアンはロシア人たちが乗って来た宇宙船で地球に向かっていってしまった。僕たちは火星に残りたい者を残して宇宙船を追いかけて地球に向かった」

私は「ふむ」と言った。

「僕たちは地球で火炎放射器などを作って怪物エイリアンを退治した。弥生土器の中には神様が作ったと伝えられるものがあってその土器を覗き込むと地球があった。僕たちはその新しい地球に生まれた人間たちに意識を転送させた。生まれ変わった僕はこうしてここに居るってわけ」

私は言った。「あんたの話、ようわからんわ」

「まあ、分からんかも知れんねえ」と18歳男子はニヤリと笑った。

(了)



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