感想
小野不由美『残穢』
リアルなホラーである。ドキュメンタリーホラーなどと書いてある。実際に著者が経験したことを書いたんじゃないのか、と思わせる小説。
怖くない、といえば怖くない。怖いといえば怖い。衝撃的な怖さではなく、じんわりじっとりとした都市伝説や怪談の恐さだ。
でも、読んで良かった。ホラーの概念に関する小説でもあるし、人間の感覚について訴える力のある小説だ。
いるのかもしれない。いないのかもしれない。それこそが霊感だと思う。はざまで揺れる人間の感覚が霊感なのだ。
もちろん、もっと霊感の優れた人ならば霊自体と遭遇してしまうのだろう。
この小説のように調査を続けると病気になるような気もする。また、それは小説に書かれているとおりに無関係のものかもしれない。
この正直なリアルさがひきつける。いつも並行で何冊も読み進めている僕だが、この本は手にして一気に読んだ。つまりは面白いのだ。怖いという感覚よりも怪談の調査という感覚が好きなのかもしれない。
その点ではブライアン・ラムレイの『タイタス・クロウ』のような怪奇現象の探偵が悪魔的クートゥールー神話の怪物との戦いとも似ているが、『残穢』のリアルさには敵わない。
また『心霊探偵八雲』のような霊感を駆使した推理小説とも違ってリアルだ。
あくまでも民俗学的な調査なのである。文献にあたり、人をたずねて話を聞く。この調査方法自体もリアルだし、奇をてらったビジュアル的なホラーではなく都市伝説や怪談といった、あくまでも民俗学的なホラーがリアルだ。
そう。リアルという単語を何度も使ってしまったが、こんなにリアルなホラー小説は、これまで読んだことがない。そして読了後、読んで良かったと思えるホラーでもある。
ちなみにカエルのぬいぐるみを一緒に写したのは魔除けである。本を読んだみなさんが無事にこの世界に帰ってこれますように。
徳村慎
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