小説『怪奇と夢の日記』2016.6.8.
徳村慎
1.いつもの暗い光の人魂
青かったり赤かったりする光の女性が感じられた。Oに似ている。そんなに恨みを持たれているのか、と思い、これ以上不幸にはならないだろう、なんてタカをくくっていた自分が馬鹿に思えた。
いや、闇なのかもしれない。ただの闇だろう。こんなの病的な一時的な精神の錯乱か思い込みなんだ。
そう思おうとしても光がヒュンヒュン飛び回る。目に見えるか見えないかぐらいの女性像になるかならないかの光。
そのうち、馬鹿らしくなってきた。
呪うなら呪え。好きにしろ。それにOではなくMかもしれないし。いや、大学の時の名前は忘れたあの子かも。いや、あれは本当にあった出来事なのか。たぶん、思い違いだ。リアルな夢を見て思い込んだのだ。まさか殴ってはいないさ。
今思い返せば、Mちゃんの友人は……。違うと思う。それは僕ではない。それでは近所のAちゃんはどうだ?……だいたい実在するのか?
「T君がどう出るかで変わる」
高3の時に言っていたクラスの男子の言葉。僕がそんなに女性にみさかいなく手を出すというのか?……幻だよ。マボロシ。
この小説の形を取る日記を書いているとラップ音がした。いや、単なる近所の物音だろう。つけまわされる原因は、ひょっとしてAちゃんのせいなのか?
わからない。Aちゃんの周りの者たちなのか。まったく別の人物なのか。それともすべては幻聴なのだろうか。あれも妄想の過去なのか。林の中で僕とAちゃんはひとつになった。いや、それなら今頃、刑務所にいるのではないか?
呪いか。僕は糖尿か何かの太ることによる病気で死ぬかもしれない。
じゃあ、食べるなよな。
ふふふ。自分でツッコんで笑えてくる。
呪うなら呪え。お前の呪いの体質でもS先生は殺せなかった。お前のデザインを盗作したS先生でも、あの程度の呪いだ。Oはさ。全てを持ってるのに、まだ寂しいのか。旦那だって友人だっているじゃないか。2人の子供だって。
頭痛がした。一瞬、「2人の子供だって。」と書いた直後に軽く頭痛。さすがに僕も呪われる運命なのか。
あの夜、僕は青や赤の暗い光を見ながら、呪うなら呪え、とつぶやいて眠った。
2.Kさんの夢はアニマなのか
そして何日か経って今日の朝に見た夢。僕はKさんに会った。トイレで本当にあんなことがあったのだろうか。つまりKさんとは、そういう仲とも言える。
久しぶりの再会では性的な感情など微塵もなく、懐かしさと温かさがあふれていた。夢の中でKさんは聖母のような慈愛しかなかった。
朝、僕はつぶやく。もう解決したと思っとったけど、解決してなかったかな?
ユングでは性的な女性のアニマから次第に聖母へと変わるという。しかし、あまりにもかけ離れた聖母像だ。僕は性的な女性をまだ求めているのに。
いや、心が寂しいのか。性的な満たされかたではなく、自分の求めるものがあるのか。分からない。子役の○○ちゃんと寝る夢を見た頃とは違うと自分では思うのだが。それは解決しているのだろうか?……○○ちゃんの代理がAちゃんではなく、逆にAちゃんの代理が○○ちゃんなのか。
すべて嘘の世界に生きていて、自分を失っている。そうだ。失っているのだ。でもKさんは、僕をどう思っているのだろう?……幼稚園から高校まで学校が同じだったKさんは。あの顔は満ち足りた聖母の顔だった。
3.もう少し前の話
怪談を幾つか読んだ後、トイレに立つと黒い髪の女がいた。まばたきをしない目が僕をじっと見つめる。その髪型はOのようでもあるが、顔の輪郭はむしろ高校の時の後輩の中でもあの子に似ていた。
両親が子連れ通しで結婚したあの子。あの子には1つ違いの妹が出来て。姉はハイになることが多くなったと言われた。教室で服を脱いで誘ったとかいう話だった。脳機能の障害だったらしい。妹はウリで有名だったとか。
これも半分はOから聞いた話だ。あいつは壮絶な世界を17にして知っていて。僕は甘いまま大人になっていた。その後の地獄のような10年間には眠る前だけ生きている実感があった。それを思うと今はマシなんだろう。
黒い髪の女は怖かった。目を合わせないようにしてトイレに入ると正面にいる。トイレに移動したのか、幻覚に近い映像が思い浮かぶのか。便器だけを見つめて怖さをまぎらす。
トイレから出て小走りで自分の部屋に戻る。床の間から黒い蝿の塊のようなモヤが出てきて渦巻いている。何も考えないように努めるといつしか眠りに誘われた。
4.祖父
前に感じていた亡くなった祖父のような感じが消えた。いや、また、感じられる時が来るのかもしれない。
時々、感じられるものなのだ。最近は感じないが。誰かが後ろで作業しているな、と思ってしばらくして振り返ると誰もいないのだ。
しかし、悪い霊ではなく祖父だと考えていたりする。では幽霊はいるのか?……と尋ねられると僕が勝手に感じているだけかもしれない。
(おそらく続く)
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