小説『巨人に食べられたい』
徳村慎
女性の巨人に食べられたい。そんなことを思ったのはいつからだろう。
僕は小鳥を肩にのせて湖沼に小舟を浮かべている。
小鳥はあいかわらずしゃべるのが好きだ。
「だから宮○と大○は出来てるんだよ。絶対そう。長年BLを読んできた私だからわかるの」
くだらないと思いつつも芸能人を使った空想に話をあわせる。
「じゃあ、恋人なんやね。でも奥さんもおるやろぅに。奥さんかわいそう」
「違うのよ。偽装結婚なのよ。お金で結ばれた関係なの」
「ふ~ん」と言って聞き流す。コイツのBL話には適当につきあうのが一番だ。
沼にはもやが立ちこめていて対岸が見えていなかった。対岸で小舟をおりて落武者の霊に案内されて進む。
巨岩を登っておりる。そこにまるまると太った女性の巨人がいた。
巨人は僕をつかんで口に入れた。ドロドロの唾液と粘膜の中で僕はズボンを下げて白濁を放つ。快感の溶けた世界の中で僕は胃へと送りこまれる。
その瞬間、唾液の洪水が僕を外に押し流した。
巨人ののどはザックリと斬られていた。巨人をナイフとフォークで食べる、頭から3本の触手が生えて全身青緑色の6本腕の異星人がいたのだ。
小鳥が僕の肩にとまる。
「良かったわね。夢がかなって。食べられたかったんでしょ?」
僕は泣きくずれた。どうせなら消化されたかった。死にたかったのだ。
下半身がムカデの女性が地面から現れて僕の肩を抱いた。
「悪くない。悪くない。大丈夫よ。あなたが生きてていいのよ」
小鳥が険しい顔でムカデ女に言う。
「さっさと離れなさいよ。キモいのよ」
ムカデ女と小鳥が喧嘩をしているあいだに僕は9歳ぐらいの金髪の少女に手をひかれて洞窟に入ったり出たりして鬼ごっこをしたりして遊んだ。
金髪の少女の親は老人だった。
「この子と結婚してくれるなら黄金のドクロをあげよう」
僕は黄金のドクロを奪って走って逃げた。
小鳥が僕の手からドクロを奪う。
「これは私のものよ。取り返したければ、ここまでおいで」
森の中を進む。小鳥の姿を見失った僕はゆっくりと歩く。
毛むくじゃらのクマのようなブタのような者が現れて僕を棍棒でなぐった。
森では魔女がスープを煮込んでいた。カレーの匂いに近い匂いがする。僕はダシにされるために水から煮られることになった。最初はいい湯だったのにお湯はドンドン熱くなった。
ムカデ女が仲間をたくさん連れて僕を助けに来てくれた。投石機の石が当たった魔女と毛むくじゃらは逃げていく。僕はお湯の中から外に出してもらった。
魔女がのこしていったラジオで緊急地震速報が流れた。強い地震が僕たちをおそう。
僕はムカデ女の手をつかんで走った。
大きな岩が転がってきた。ムカデ女の仲間たちはたくさん死んだ。
ムカデ女は僕の胸の中で泣いた。「君は悪くない。君は生きてていいんだ」と僕は言った。そして川で小舟を見つけた。2人で川を下る。岩に乗り上げそうになり、滝を下り、田んぼのわきを通って沼に出た。
ムカデ女の身体を触りながらキスをすると、ムカデ女は小鳥へと姿を変えた。
「黄金のドクロを手に入れたいの。黄金のドクロがあれば2人で幸せになれるのよ」と小鳥は言う。
僕は沼から対岸へと上がり、落武者に案内されて進む。本当に黄金のドクロで幸せになれるのかと疑問に思いながら。女性の巨人に食べられたいと願いながら。
空を100羽の小鳥が飛び去っていった。
楽しく死ねる吉兆だと僕には感じられた。
(了)
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