「ボム。忘れちまったのかよ?オレだよ。イチタだよ。お前と脱獄したじゃねーかよ」
少しの沈黙に心の闇の深淵に落ちそうになる。オレは枯葉となり砕けて土に還る。脱獄は鮮やかな色を伴っているのに、まるで他人事のようにも感じる。
「脱…獄?」
ボムの双眸に光が宿る。いや、気のせいだろうか。
「そうだよ。ジャンクランク刑務所から脱獄しただろ?」
オレの声は震えた。歯をぐっと食いしばり、瞳を覗き込む。汗がゆっくりと伝い流れた。
ボムは銃を持たない左手で、額の傷の辺りを押さえる。その傷が思い出させる、きっかけとなるのか。あるいは、逆に壁となって記憶を閉じ込めていくのか。ゆで卵の黄身や、蛹の中の成虫のように。
軍人の一人がボムに追いついた。
「ナンバー54。どうした?仕留めないのか?」
ボムは左手を額からずらして髪の毛を掻きむしった。身体を縮めてすすり泣く。髪の毛を思い切り引っ張り天を仰ぐ。嗚咽から叫びへと変わるボムの声。
「ああああッ。く…来るなァッ」
続々と追いついて来る軍人たちに向き直り、右腕の筋肉に力がこめられた。レーザー銃は光を一直線に吐き出す。ゼイゼイあえぐような声を出しながら次々に軍人たちを殺していく。
森に人肉の焦げる臭いが漂っていた。
iPhoneから送信