林は博学だが変人で、市街地から少し入った住宅地にあるアパートの一室に住んでいる。
彼は、人と接することを極端に嫌う。俺も何度か喧嘩をしたが、案外それで二人の距離は縮まったんじゃないかな。
林が使っているのは、色々ある。SDカード。カセットテープにMD。ACIDでCD-Rに落としたものも、ある。俺の知らない、コンピューターのファイルの方法を切り替えて、色々な音のループを作り出す。
ループはカセットテープに落とされる。俺はカセットを自宅のミニコンポに入れて、イヤホンジャックからライン経由でサンプラーに入れる。
サンプラーのSP-404は、いささか時代遅れな気がしないでもない。けれど、そんな感覚が好きだ。その辺、林は分かっている。なんせ、テープを使っている奴だから。時代錯誤的自己満足に陶酔する。
俺の自宅での作業は、サンプラーに素材を取り込んで曲を作ることだ。
カセットテープを再生するミニコンポから、まずアウトプット代わりのイヤホンジャックへと音が出る。片側がミニ端子のラインを使って、今時、モノラルインプットに一本ぶち込んで、サンプラーへと音が入る。サンプラーSP-404が俺の相棒だ。中古で買って、世界が変わった。世界には、こんなに音が溢れているのか、と。サンプリング、エフェクト、リアルタイムでのシーケンス。音楽とは、存在していたと世界を認識することであり、今、仲間が俺のループに合わせて踊っているのは俺の音楽を音楽として認めていることになる。林がやっている、フィールドレコーディングはマニアック過ぎるのだ。本人にしか分からない音楽だ。それをサンプラーに取り込んで曲にするのが楽しい。