次の日、アサミから師匠の所へ来いと連絡があった。バンド対決でどちらが師匠の所に通うのがふさわしいかを決めるという。
師匠のアトリエに、みんなが集まった所で、バンド対決が、はじまった。
まずはアサミたちのバンド『アサミーメイデン』が、アイアンメイデンの曲をやった。ギターとボーカルとカズー(おもちゃの笛。ハミングするように「うー」と声を出すと「ぶー」と音が鳴る。)をアサミがやる。あとはベースとドラムのトリオだ。
本家本元のアイアンメイデンはテンポチェンジが多い。ギターのリフの所で(ここをアサミはギターを弾きながらカズーで演奏する。)ドラムが合わせて、ゆっくりになったりする。ドラムの子は、スティックで分厚いマンガ雑誌を叩いている。
テンポチェンジが上手くそろわずに、演奏はグダグダになった。
次に、テクノ・アッシャーが演奏した。ライバルの杏に負けないようにと必死で練習して出来た曲だった。テクノ・アッシャーは1曲1曲がアドリブで1発勝負である。しかし、今回は練習して、曲の構成を大まかに決めていた。
DLY(ディレイ)モードのカオシレーターはLENGTH1にしてTEMPO120のまま。DRUM80のバスドラムをドッと入れると、4つ打ちが流れる。エレキギターがCLASSIC STACKの歪み系で見事にパワーコードでリズムを刻む。カオシレーターでLENGTHは4にしてBASS30が入った。
桜のギターのチューニングは、パーフェクト4th(フォース)のダウンチューニングだ。6から5、5から4、4から3、3から2、2から1弦が全て、完全4度にチューニングされている。だが、このままだと細い弦の2弦と1弦がテンションが高くなって弾きにくくなる。そこで、さらに全弦を全音半下げのダウンチューニングにしてある。
泉はLEAD11でメロディを入れる。そのメロを桜がギターで繰り返す。そしてメロが消えて、ドラムとベースのみの音になると桜はACOUSTICにツマミを変える。アコースティックギターのシミュレーターだ。アコギの音がミニアンプから出てくる。泉がカオシレーターのACOUSTIC20のトランペットの音を出す。また桜はCLASSIC STACKに戻してパワーコードを刻む。泉はLENGTHを1の半分のHに変えてグリッチを出し、最後にスイッチを切る。
ジャーン。ロングトーンが鳴らされて、ギターが消えて演奏は終わった。
師匠が言う。「弱ったな。歌モノとインストの対決で甲乙付けがたいな。分からん」
「どっちが勝ってるんですか、師匠?ハッキリ言ってよ」とアサミ。
「うーん。一方はメタルで、もう一方はテクノやしな~。分からん」
「最初から分からんって言う気やったんじゃやいですか?」と再びアサミ。
「絶対、テクノ・アッシャーの方が上手いやん。ちゃんとリズムキープ出来たァるギターは桜ちゃんの方やもん」と泉が言う。
師匠が言った。「引き分け。よって勝負なし」
「ええー?」桜とアサミが同時に不満げに声を出す。
「アサミー・メイデンの方が上やよ。テンポチェンジが難しいんやで」とアサミ
「何言っとるんよ。テクノ・アッシャーやよ」と桜。
「じゃあ、次こそ、勝負ね。負けたら今度こそ師匠の所へ来(こ)んといてよ」
「望む所やよ。誰に審査してもらう?」
「ライブに来た人に、どっちが上手いか手を上げてもらうんよ」
「ブサイクなアサミのファン居(お)る訳ないやん。ライブに来てくれる人なんて居(お)るん?」
「わー、ひどーい。師匠、ひどいですよね。ちょっとぐらい顔が可愛いからって、あんな事平気で言うんですよ」