バンド「テクノ・アッシャー」が結成されたのは、桜が中学2年の3学期になった頃だった。
栗色の髪の女の子、桜がバンドを脱退したのが、そもそものきっかけである。
「桜、アンタのギター、何(なん)か機械みたいやわ。1人だけリズム合わせようと思ってないやろ」
「カッチリしたリズムで、やりたいんよ、この曲」
「違うやん。アイアンメイデンはテンポチェンジあるから面白いんやん」
「アイアンメイデンなんか、クソくらえ!」
「そんな事言うん。桜、アンタにはバンド脱退してもらうわ」
「アサミ。ボーカル下手やからデス・ボイスでシャウトしか出来んのやろ。そんなボーカルとやるなんて、こっちから願い下げやわ!」
今、閉まった音楽室のドアを足で蹴って、桜は中指を立てた。
「バッカやで。私が居(お)らんようになったらアイツらのバンドに男子集まらんようになるのに」
ミニアンプのmicroCUBEを左手に、ギターのソフトケースと輪にして束ねたストレートケーブルを右手に持って、眉間にしわを寄せて廊下を歩く桜に、怖れをなして近づかない放課後の生徒たち。美人なのに残念である。
*筆者のカバパンダはアイアンメイデンが嫌いではない。むしろ好き。(笑)
