半仙戯 | かや

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春夜

春宵一刻直千金
花有清香月有陰
歌管樓臺聲寂寂
鞦韆院落夜沈沈

春夜(しゅんや)

春宵(しゅんしょう) 一刻(いっこく) 直(あた)ひ千金(せんきん)
花(はな)に清香(せいこう)有(あ)り 月(つき)に陰(いん)有(あ)り
歌管(かかん) 楼台(ろうだい) 声(こえ) 寂寂(せきせき)
鞦韆(しゅうせん) 院落(いんらく) 夜(よる) 沈沈(ちんちん)

蘇軾(そしょく)の七言絶句。山田勝美氏『中国名詩鑑賞辞典』によれば蘇軾は1036年-1101年。宋代の詩文の大家。字は子瞻(しせん)、号は東坡(とうば)、四川省の人。父の洵(じゅん)、弟の轍(てつ)とともに3蘇といわれ、いずれも唐宗八大家の中に数えられる。
神宗(しんそう)の時に王安石(おうあんせき)の革新政策に反対し、黄州(こうしゅう/湖北省)に左遷された。
有名な「赤壁の賦」はこの当時の作。哲宗(てつそう)の時に召還され、のちまた海南島に還されなどし、66歳で没する。書画に巧みで一家をなした。著に「東坡全集」「東坡志林(とうばしりん)」などがある。

意。春の宵は暑からず寒からず、まことに快適で、一刻に千金の値打ちがある。花は清らかな香を放ち、月はおぼろに霞んで、歌や笛の音賑やかであった高殿も今はひっそり静まりかえり、ぶらんこのさがっている中庭には、人影さえなく、夜は静かに更けて行く。


革新的な政治家であり学者としても有名な王安石の革新政策に反対して左遷された蘇軾だが、王安石は蘇軾のこの「春夜」ととも双璧といわれている「夜直」という春の夜の景物を歌った詩がある。
字は介甫(かいほ)、号は半山(はんざん)、臨川(りんせん/江西省)の人、詩文に巧みで、蘇軾と同じく唐宋八大家のひとりの王安石(1021年-1088年)は神宗の時に宰相に任ぜられ、新法を案出し、政治上における大改革を行うもあまりに急変すぎて反対にあい失敗する。68歳で没する。著に「臨川集」がある。
その王安石の七言絶句が以下。

夜直

金爐金盡漏聲殘
剪剪輕風陣陣寒
春色惱人眠不得
月移花影上闌干

夜直(やちょく)

金炉(きんろ) 香(こう)尽(つ)きて 漏声(ろうせい) 残(のこ)る
剪剪(せんせん)たる軽風(けいふう) 陣陣(じんじん) 寒(さむ)し
春色(しゅんしょく) 人(ひと)を悩(なや)まして 眠(ねむ)り得(え)ず
月(つき)は移(うつ)って 花影(かえい) 闌干(らんかん)に上(のぼ)る

意。(夜のふけるにつれて)金製の香炉の香もはや尽きて、時をきざむ水時計の音もかすかとなり、春の風情は私の心を悩まして、なかなか寝つかれせうもない。おりしも月は西の空に移って行き、それにつれて今まで庭にあった花の影が(するすると、まるで生あるもののゆわうに)闌干の上までのぼって来た。

蘇軾の「春夜」は起・承の二句がすぐれているのに対して、王安石のこの「夜直」は転・結の二句がすぐれているのがおもしろいといわれている。比べ眺めるのが面白い。
俳諧で、春の夕方、黄昏時を「春の夕べ」「春夕べ」「春の暮」、春の夜の日暮れて間のない更けないまでを「春の宵」「宵の春」「春宵(しゅんよう)」、そして春の暮を含めて春の夜分、広義の春の夜を「春の夜」「夜半(よわ)の春」と季題に用いる。
月の光、灯火の影、全てがどこか朧朧たる感じを漂わせ、艶かしさを伴う春の夜は多く詠われている。


また蘇軾の詩にある鞦韆(しゅうせん)、つまりブランコは、俳諧ではやはり春の季題で「ぶらんこ」「鞦韆(しゅうせん)」「秋千」「ふららこ」「半仙戯(はんせんぎ)」が用いられているが、春の季題にブランコが用いられているのは中国由来だ。
古代中国には冬至から百五日後に訪れる「寒食節(かんしょくせつ/かんじきせつ)」があり、鞦韆はその日に女性たちが遊ぶものとされている。この「寒食節」は文字通り火を使わない食事をする日で、古い火を消し、新しい火を熾すという農耕儀礼であり、女性たちによる鞦韆遊びもまた農耕儀礼のひとつだったと言われている。
「半仙戯」は唐の玄宗皇帝が、羽化登山、人間に羽が生えて仙人となり天に登る感じを味わえ宙に浮く仙人のようだと名付けたことに由来する。

移動の車中で『中国名詩鑑賞辞典』から杜牧、李白、杜甫、買至(かし)、欧陽脩、劉禹錫(りゅううしゃく)、白居易、張籍(ちょうせき)、韓翃(かんこう)、范成大(はんせいだい)、高啓、王子禎(おうしてい)、袁枚(えんばい)、記していないが他にも多く詩人の描いた春を題材にしたものを選って眺めた。中でも蘇軾と王安石の詩が昨日はひときわ鮮やかに情景が余韻に残った。眺めるその時その時で特別印象に残る詩は異なる。
そういえば久しくブランコに乗っていないなと思う。今日はまずブランコから始めようかなとも思っている。雨は関係無い。むしろ楽しい。半仙戯。なんと素敵な呼称なのだろう。


monday morning白湯が心地良く全身に巡り渡る。

本日も。平坦。