そうみたい | かや

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かやです。



前日に引き続き、気持ち浮き立つ雨で始まった昨日、行く先々で「どちらかに行かれるのですか」と尋ねられた。
そして、夕刻、銀座八丁目の鮨屋で合流した友人は「何を入れたかったの?」と言った。
「財布」と応え、「どれだけ大きな財布なの」と友人は呆れて笑った。

普段殆んど開けないクローゼットを開けると、何年か前に特に用途も無く購入したR.M.Sローリングモビリティスーツケースが静かに鎮座していた。
全くその存在を忘れていたし、一度だけ散歩の時にスマホを入れてカラコロカラコロとはいえ、音はそんなでは無いが、カラコロカラコロ引いて歩いただけだ。
昨日出掛けに思いがけず完全に忘れていたキャリーバッグに遭遇したので、そのキャリーバッグを引いて、門に待機した車に乗り込んで昨日は一日が始まった。


友人が「何を入れたかったの?」と言ったのは、以前にもこのキャリーバッグでは無いが、やはりカラコロカラコロとはいえ音はそんなでは無いが、カラコロカラコロ引いて出掛けた時もこの友人と食事をしたようで、その時はまだ喫煙者だった私はタバコとデュポンのライターをキャリーバッグに入れ、一日過ごしたことは記憶に有るが、その時に友人と食事をしたことは全く忘れていた。
ちなみにライターは百円ライターのことも有ったし、特に拘りは無かった。
デュポンは開閉時の反響音が素晴らしく美しく、それだけでタバコを吸うのが楽しかった。
ガスを入れたりフリントの入れ換えはいつもデュポンの店でして貰っていた。
ケース部分は緑色の革張りで縁はゴールドだったがかなりレアモデルだったらしく店の人からとても珍しいタイプですので大切に使ってくださいと言われていた。
他に漆塗りや、プレミアムモデルを持っていて、それらも代わる代わる使っていたがそれらも珍しいタイプだったようで店でガスを入れて貰う度に大切に使ってくださいと言われていて、「はい」と応えていたがタバコを吸わなくなっていつしか廃棄した。
そもそもガスを入れたりフリントの入れ換えなど自分ですれば良いのだが横着者なので店任せにしていた。シャンプーやネイルケアを店任せにしているのと同様だ。
更にもっと昔、883に乗っていた頃はジッポーのオイルライターだったがそれも特に意味は無く、たまたまオイルライターだっただけだ。このジッポーはアメリカのどこだったかは忘れたがキャリアつまり航空会社の何かの記念で配布個数の限られたやはり希少なもので、そのキャリアの社長と親交の有った日本のとあるキャリアの社長から貰ったものだったが883に乗らなくなった途端に廃棄した。


「あの時のシャネルのカーフキャリーバッグはその後どうしたの?」と友人は言い「キャリーバッグは用が無いから処分したの」と応え「で、また買ったの?」と友人は言い「そうみたい」と他人事のように応えた。思えば全て他人事のようだ。
「そうみたいって」友人は笑った。
「今日は財布以外は完全に何も入れていないの」
「スマホは?」
「車に置いてきました」
「化粧ポーチとかは?」
「家に置いてきました」
突出、刺身、焼き物、椀、にぎり、デザートと続くコースのにぎりを追加で幾つか頼んでいる時の会話だ。
「何でも置いてきてしまうのね」友人女性は笑い「私を置いて行かないでね」ふざけて言った。
「はい」と笑って応えたところで追加のにぎりが眼前に置かれた。


friday morning白湯が心地良く全身に巡り渡る。

本日も。適当。