JTA総会で「クラスルールC6」の議題が2つ出ていたのだが、どうもこの話は何度も反芻に反芻を重ねている。
もう今となっては、末尾に後述する「待っていた状況」が生じてきていて、C6問題ももはや単なる思い出となることが期待されるような感じもあるので、ここにまとめたところで意味のないことだが、過去のメモをコピーして、少しまとめ直しておこうかと思います。
そのまとめに入る前に…
日本での体重ルール問題(現クラスルールC6)については、1992年に葉山で行われた世界選手権に端を発します。つまり、もう30年に渡る議論なのですが、これについては、毎回、全日本選手権の最中で行われる年次総会で結構な意見が出て長い議題になるので、(誤解を恐れずに言うならば)少々うんざりしてきているところがあります。
2010年の全日本選手権の際に行われた年次総会だったと思うが、もうこの議題は年次総会で議論するのをやめて、C6委員会を作って別で話し合いましょうという決議をした…と記憶している。
実際に、C6委員会を作ったが、その後は大した議論に発展せずにその役割を終えた。
C6委員会は、もともとC6反対委員会としていたが、どちらの立場に寄らずにC6をちゃんと議論しようということで、反対の2文字を削除したような記憶もあり、割とちゃんと議論しようとしていたが、正直なところ、それまでにもう充分に議論をし尽くしていた感がある。それも当然で、何しろその時点でもほぼ20年近い歴史がある話なのだから…。
少々うんざり…と表現したのは、このように議論し尽くした話で、安全性も公平性も議論を尽くし、ルールを擁護する側の意見も思いつく限りの意見が出尽しているので、この話を総会で「協議」したところで、過去に出た意見の反芻に過ぎないからなのです。
この話は、「C6ルールに関しては、安全性・公平性などを含めた総合的かつ歴史的な議論を尽くしており、国内レガッタにおいては、総会決議というクラスルール上の手続きにより国内レガッタでの適用をするかどうかを決めています。尚、本年度はこれを適用しない決議としています。」というような告知は要するとは思うが、原則として総会で適用するかどうかの確認の「審議」だけをやれば充分な話なのです。
協議が必要になるのは、「新たな提案」に対して必要なのであり、2つ目の議題にあった次回のワールドカウンシルでのC6削除提案をするかどうかは、状況の変化も伴っているので、重要な議題だと思います。もう総会の時間がなくて、総会の後に協会長には直接伝えましたが、日本とイギリスが共同提案すべきと思います。
ただ、新たにテーザークラスに参入した人や過去の経緯を知らない方は、言いたいことが出てくるのは当然であり、この辺は告知が不足しているようには思えます。正直なところ、現状では、酒席などで話すような話になっていると思うのです。
さて、この体重ルールについて改めて知っている範囲、記憶の限りにまとめてみます。
念のため、前置きすると、個人の記憶によるもので、非公式であり、正確性の保証はありません。
それに、2010年あたりからはあまり活動ができてないので、近年の事情にあまり詳しいわけではないところがあります。
故に、個人的なブログにまとめています。
個人的な記憶によるC6ルール
テーザーのクラスルールは、フランク・ベスウェイトが1972年に書いたNovaのルールが元になっているとのことです。
NS14クラスというオーストラリアのナショナルクラスにおいてフランクが作ったNovaがテーザーの原型になるのですが、このNS14クラスで軽量なチームの優位性が目立ち、子供と乗るようなチームが増え、夫婦チームなどが減っていったというNS14クラス衰退に繋がる出来事を元にNovaのルールでは体重ルールの規定が生まれ、それがテーザーの体重ルールにつながっているらしい。
フランクは、この出来事を女たちが去っていったというような表現をしていた記憶があります。日本人からすると夫婦チームは軽量なイメージがあるが、オーストリアでは大人二人だと軽量でもないようで、要するに、軽量チームの優位性から大人の二人乗りが成立しにくい状況が生じたということです。
フランクがテーザーを紹介した言葉に”It is a super light yet durable, efficient dinghy designed to be sailed by two adults, originally a man and a woman.”とか”most fun and highest performance within the strength of a man and a woman”とあるのは、テーザーの軽量・効率などの優れた点だけではなく、ルールによる補正も含まれているのかもしれません。
約50年前にオーストラリアのナショナルクラスであるNS14クラスで起こった出来事は、フランクを中心にオーストラリアの人たちの中でいつまでも引き摺っている負の記憶でもあります。
しかし、彼らにとっては、このルールはクラス存続のためのルールであると信じられていたと言えると思います。
ここがこの議論の本当の出発点なのです。
安全性・公平性などを中心とする理屈でこのルールを撤廃しようとしても、全く違う論理でこのルールを堅持しようとしているので、このすれ違いを理解せずには話は通じないのです。
このルールを一方的な視点で不公平なルールとするのもまた間違っています。競技性を高めるためにルールで補正するというのは、ルールの成り立ちには充分にあり得ることで、このルールによって競技としての質が向上していると考えられている面はあると思います。もちろん、適正な手段なのかという面で賛同するかは別の話です。
そこで、軽風下での実施基準を合わせて考えたり、議論の内容だけでなく、評決に至る手段までも考えてきて、あらゆる意見が出尽してきたのが今までの経緯です。
日本におけるテーザーは主にY-15という国内クラスを楽しんでいた人達の間で流行り始めて、葉山・野比・江ノ島・大阪北港・芦屋などが中心に行われてきました。当初は、テーザーの導入に中心的な役割を果たした故吉川会長の個人的な尽力によりニュースレターが発行されたり、協会活動の前身的な活動が行われ、レガッタが行われるのは運営の関係で主に葉山を中心で行われていました。そこから、野比でミッドウィンター、芦屋で西日本というような各地でのレガッタが広がっていきました。
また、海外遠征にも複数のチームが行くようになりました。
実際に自分が経験してきたのは、葉山ワールド開催に向けて活動していた1991年頃からなので、この辺までは聞いた話や過去のニュースレターを読んだことによるものです。どうもこの辺りまでは、クラスルールなどに関する国内の認識レベルが少々現在と異なるようなところがあります。
1992年に葉山で国内初ワールド開催されることになり、そこへ向けての活動の活発化に伴い普及が促進し、その後、協会活動の組織もどんどん整備され、海外ワールドにも毎回10チーム以上が出場するような盛況ぶりをみせるようになります。
この1990年代に、テーザークラスは、セーリング技術もクラスルールなどに関する認識も飛躍的に変わっていきます。
体重ルール問題において、一つの起点となるのがこの1992年の葉山ワールドです。それまでは、クラスルールといっても不都合な体重ルールは、主催者側の一存で国内レガッタでは適用されていませんでした。ワールドでは当然適用されていましたが、この体重ルールが国内で活動する人達に特に問題となったのが、国内初のワールドである葉山ワールドです。
なんと、1992年の葉山ワールドでは、約35kgのバラストを積んでいたチームがいました。
他にも、バラストを積まなくてはならないチームが日本人チームに多いという状況が生じました。
当然、日本の中で、この問題が大きな課題となり、この後、このルールを撤廃を求めるようになります。
フランクは、次のように述べて、このルールを改善しようとしました。
In this case I regard myself as sinner-in-chief. I wrote the original Tasar (then Nova) rule in 1972. By about 1985 I regretted that I had not thought harder in 1972 about future "legitimate" lighter crews such as the Japanese.
そして、1994年ブリクサムワールドの頃に、クルーウェイトルールに15kgの上限ができました。
一歩前進です。その後も日本から撤廃の要求を続けましたが、日本では体重ルールを適用していないじゃないかなどのオーストラリアからの指摘もあり、それでは、日本の国内レガッタでも体重ルールを適用しようなどの試みも行われました。
その後、1999年浜名湖ワールドで上限が12kgになって、現行のルールとなりました。
しかしながら、これらの変更は問題を小さくしようとする試みに過ぎず、このルールは頑なに維持されてきました。
当然、日本では撤廃に向けての議論は続きます。
フランクは「No system can hope to equalise performance over a wide range of crew weight.」という但し書きを付しながら、「130kg and three quarter compensation」という提案を新たにしましたが、これは改善になるとはみなされずに、そのままとなりました。
結果、軽量なチームは、依然として、醜悪なバラストを購入するコストと取り付ける労力を払って、軽量で効率的という謳い文句のボートにこれらを積まなくてはならない状況が続きます。
フランクは、次のように述べています。
I make no apology for writing the “Full compensation” rule in 1972 now thirty years ago. At that time we were faced with a crisis in that the philosophical raison d’etre of the NS14 class was being threatened by a new situation in which adult helms and lighter, generally male adolescent forward hands were winning and displacing adult helms and adult, always heavier and generally female forward hands. I did what I could to stem the hemorrhage. I am proud that I did it. I am proud that it worked and that as a result the Tasar class is a haven for magnificent women.
テーザーセーラーがテーザーとそのソシアルイベントを楽しめるのは、テーザーが素晴らしいボートで、素晴らしい人達をひきつけているからであり、ルールによる小細工に満足しているわけではありません。
しかし、フランクは、テーザーを守るためにこのルールが必要だと考えていたのです。
その考えは終生変わることはありませんでした。それほどにNS14での出来事は、大きな影響があったのでしょう。
念のために言っておくと、フランク・ベスウェイトに対する尊敬は、この体重ルールの出来事があろうとフランクを知るすべてのテーザーセーラーの共通項であることは変わりません。テーザーは多くの人に非常に大事にされてきて、そのデザイナーであるフランクに対する感謝や尊敬は、変わることがありません。
この話題については、どうしても、フランクとの出来事を避けることができないので、少々誤解を危惧するところですが、フランクは体重ルールを守りたかったのではなく、テーザーを守りたかっただけなのです。
ただ、このNS14での出来事を起因とする迷信は、フランクだけのものではなく、オーストラリアの人たちにも多く信じられてきたものでもあります。
オーストラリアの中には、このルールがなくなると、食後のワインを止めなくてはならないと表現した人がいました。
そのワインの陰には、鉛のインゴットをいくつも持って海外旅行に行くことを強いられている人たちにいることを知って欲しいと思うのは当然のことです。この話は続けなくてはなりません。
オーストラリアを中心に普及してきたテーザーは、オーストラリアだけは地域ごとに各リージョンとしてそれぞれ投票権を持っています。公平性や安全性でいくら理論武装してみても、このルールはクラスの維持に必要なルールとして、多くのオーストラリアのリージョンの反対により撤廃が採決されることはありませんでした。
2005年のダーウィンワールドでは、この投票権を変えようという提案も日本から持ち込んでみました。
しかし、なかなかすぐに変更が認められるものではありませんでした。
このダーウィンワールドでは、レース後の再計測で体重が足らずに失格になったチームもいました。
先日の北京冬季オリンピックの男女混合スキージャンプ競技でもスーツの再計測での失格で大きな話題となりましたが、一度計測してパスしたものを体重が減って失格にするというのは大きな疑問となりました。
そういえば、プーケットワールドの際に、再計測の対象になって、レース後に再計測する前に計測員に「(レース後に)水を飲んだか?」と聞かれ、「飲んだよ」と答えたら、叱られた記憶があります。結局、再計測で問題となるような数値ではなかったので、何ともありませんでしたが…。海上運営ボートでも水を配っていたくらいなのに、「どこでレガッタ開催していると思ってんだろ?」と笑い話になりました。
ところで、日本人以外の人にこのルールに反対する人はいないのか?
…というと、実はそうでもなく、1996年のゴージワールドでは、ジェイ・レナハンを中心とするアメリカがワールドでこのルールを適用しないとしたことがあります。ただ、これには、フランクが猛反対し、レナハンとの間で随分やり取りされたようでしたが、結局、ルール変更はワールドでは容認されていないため、体重ルールは適用されました。
この後、日本以外からの体重ルール撤廃の動きは少し萎んでしまったかのように思います。
推察するに、アメリカの人たちはオーストラリアの人たちが変わらなくてはこの話は進まないことに早くから気付いていたように思えます。
日本からは依然として、体重ルール撤廃の提言をし続けていきます。
しかしながら、フランクは、「この議論に対して、統計学的なデータに基づく新たな議論以外は、もうこの議論は取り上げない」というような趣旨のコメントをしていましたし、ワールドカウンシルやメジャラー会議では日本からのその問題は少々うんざりされている印象もありました。
それでも、2007年のプーケットワールドでは、体重と艇のパフォーマンスの相関関係を学んで、それを日本国内のレガッタでデータをまとめてもう一度議題に挙げるという大変な労力をかけた方もいて、これに基づく撤廃提案も行われましたが、結局、データを提出しても進展することはありませんでした。
ここでちょっと話を変えて、日本国内でこの体重ルールを支持する人はいるのか?…というところにも触れておきたいと思います。実は、これはルールを支持しているという主張ではないのですが、「ルールがあるのになぜ適用しないのか?」「インターナショナルクラスなのだから、クラスルールを適用した状態でレガッタを行いたい」という意見は、以前からありました。
これ、日本国内での議論は主に安全性や公平性の観点でなされているのに、別のすれ違い議論なのです。
これを言うのであれば、体重ルールを適用しないのは、クラスルールの手続きによって行われているので、クラスルールの範囲内の話です。
そういえば、ワールドを目標とする人で、体重ルールが適用されなくても体重ルールを自艇には適用させて国内レガッタに出場した人もいました。
体重ルール適用をしようとする日本国内の意見は、「そのルールがあるのだから」という理由であまり有用な意見は少なく、仮に体重ルールがなかったら、体重ルールを作るだけの根拠を論理的に示している人はあまり記憶にありません。
唯一、体重ルールなんてものがあっていいのかと言った時に、ルールで競技性を高めるというのはあるという意見についてはなるほどと思うところはありました。他のセーリング競技でも体重に関するルールが設けられているものもあるような話でした。競技はルールがあるから面白いのであって、当然のことなんですけれども。
さて、こんな感じに、体重ルール撤廃の話は延々と続けられてきましたが、結局、撤廃に至るには、いろいろな論理や方法を検討して、提案してきても、撤廃には至りません。
前述のように、少し日本からのこの提案にはもう議論を尽くされたうんざり感さえあるよう気がしていました。
この話は、オーストラリアの中や海外からの働きかけが起こることが待ち望まれるような状況があったような気がします。
そして、2010年代に入り、少しずつそういった話が入るようになりました。
オーストラリアの中心的な人物でもあるアリステアは、「No-one would leave the class as a result of the change. It would remain a great, high performance dinghy, ideally suited to two people in the 130-150kg weight range. 」と言いました。
そういえば、オーストラリアの方がWTCAのウェブサイトにルールチェンジ(C6削除)の記事(2014/01/15付)がアップされたこともありました。これは誤報ですぐに訂正されましたし、この話に本質的な関係はないかもしれませんけど、何かの原因はあったように思います。
アメリカは、以前から体重ルールには賛同していない立場です。
最近では、イギリスも体重ルール不要論が出てきている様子ですね。
ようやく待っていた状況になってきたのだと思います。
ここからどのようになるかは分かりませんが、個人的には、まずは体重ルールを削除するのが優先されるものの、オーストラリアの人たちの今までの立場も尊重して、軽風域でのレガッタ開催に関する基準作りなども配慮できるとより本来の目的に近づくのではないかと思います。
体重ルールをなくすことに囚われがちですが、元々はテーザーを楽しく存続することが目的なルールなのですから、これを撤廃というだけではなく、撤廃した上で新しいものを加えることができると理想的です。