k1228kさんのブログ
Amebaでブログを始めよう!
1 | 2 | 3 | 4 | 最初次のページへ >>

天使


お互いの家に戻ってから 暫らくして仕事が決まった  

隣町の工場に 
一日ずらして入社した 

製品を検品 梱包する簡単な作業 

二人はいつでも一緒だったそれはそれで また楽しい毎日だった 


今度は真面目に働いた  彼が16才になる頃には単車の免許も取得した

稼いだお金は ほとんどバイクに注ぎ込んでたね  

耳をつんざく爆音のマフラー 
ゴッドファーザーの音がなるラッパ 


暴走族と名のつく集団には入らなかったものの それと変わらない単車で 数人の仲間と夜な夜な走り回った 


そんな生活が一年を過ぎた頃  順調だった私の生理が止まった…


………赤ちゃん? 


『どうしよう…』
不安がる私に

『生もうよ…』
と彼…

『うん 生みたい…』 

大好きな彼の赤ちゃん
私は《生みたい》“真剣”にそう思った 
そして彼もまた“真剣”に思っていた 



次の日 彼と私は両親のもとに揃って行った 

『赤ちゃん出来た… 生みたいの』

『え?』
驚きを隠せない母親が大きな声で聞き返した

『何言ってるの?』

『生んでもらいたいんです!お願いします』彼が言う
まだまだ幼かった二人には 親を説得出来るだけの力は全くと言っていい程持ち合わせてはいなかった 


彼の両親も含めて話し合いをした 

『どうやって育てるの?』
『まだ 早い!今回は諦めなさい』

勿論誰も『生んでいい』などとは言ってくれるはずも無かった 
 

『一日も早い方が身体の負担が軽いんだよ』

『まだ若いんだから今回だけは諦めなさい』

何度も何度も…… 

何日も何日も……

言われ続けた……


そして私は 諦めた……
親に反対され続けもうどうでもいいと半分自棄になっていた自分がいた 

反対を押し切って迄生むと言う強い意志もまた 持ち合わせてはいなかったんだろう 

彼はただ黙って下を向いていた 
肩が震えている様に見えたのは 泣いていたのかもしれない 

その日の夜私は一人で泣いた
《みんなのせいで生めない!》
《赤ちゃん ごめんね… ごめんね…》
《生んであげれなくてごめんね………》泣いて泣いて眠りに落ちた

五日後 

私は母親に連れられて病院に向かった 
彼も一緒だったのか 居なかったのか どうしても思い出せない… 


麻酔が効いて行く


……………やめて

………赤ちゃん連れて行かないで 

私は夢の中で顔も分からない小さな小さな赤ちゃんを追い掛けていた 

そして
私達の天使は
……居なくなった
     

 

どんなに反対されても生む事は出来たはず
誰のせいでも無い 
私が決めた事 
私が自分の意志で病院まで歩き 
自分の意志で手術台に上がったのだ 


私が小さな尊い命を 
葬った……  


家族のもとへ



後輩から巻き上げたお金も当然のごとくすぐに底をつく   

無くなればまた呼ぶ…
後輩は何度も 二人のもとにやって来ては頭を下げていた 


そんなに続く訳もない  後輩が泣きを入れた 

(あ~ 怒っちゃうかな) 
予想を反して 彼は言った『 もう いいよ 』
公衆電話の受話器から 
『スミマセン! スミマセン!』と また謝る声が漏れていた 

万引き  
恐喝 

働かない二人は 生きる為なんでもやった 

繰り返すうち捕まった 

【捜索願い】も出されてたらしく  数時間後お互いの両親が揃って迎えに来た 
『 申し訳有りませんでした 』
『 ありがとうございました 』
と今度は親達が何度も何度も頭を下げていた 

その光景をまるで他人事の様に… 
呆れた様に…

遠くに聞きながら 窓から見える空を眺めていた 

彼もまた同じように空を眺めていた

そして二人はお互いの父親の運転する車に乗ってバラバラに帰って行った 
海岸線を走る間 色んな事を想い出していた
( もう この夕日も海も見れないんだな )
漠然とそんな事も思ってた

家を出て四ヶ月…

幼かった同棲生活は あっけなく幕をおろした  



ボロボロのうすっぺらい一間の四畳半で 人目もはばからず 愛し合った 

朝も… 

昼も… 

夜も… 

たった数日のすれ違いを埋めるかの様に 夢中で愛し合った 

今想えば
覚えたばかりのセックスを ただ貪っていただけなのかもしれない 


 ― ボ―ーーー
    ボ―ーーー ― 


時折聞こえる汽笛も好きだった…

窓から見える
海に掛かった大きな橋 

橋から見下ろすと 吸い込まれてしまいそうな海が広がっている

年に数人… その海に引き込まれてしまう命も有ったと言う
実際 二人が暮らしてたほんの数か月の間にも その場所で尊い命が消えた…

それでも私はその景色が大好きだった  





仕事に行かなくなって何日過ごしたのだろう 
当然お金も無くなって行った   


『お金持って来い』アパートから少し離れた公衆電話で彼は“後輩”に命令した
どんなに遠くてもあの頃の“不良”達に上下関係は絶対だった 

二日後 指示に従って中学生が二人三万円を持ってやって来た  どうやって集めたのかなんて… 私たちはそんな事どうでも良かった  

『ご苦労さん』彼がそれだけ言うと後輩達は
『スイマセン スイマセン』と何度も何度も頭を下げながら 
また 手動ドアを開けて電車に乗って帰って行った 

地元ではその頃 居なくなった二人の噂がいっぱいに広がってたんだろう 

お互いの両親達にとってそれは最悪の時期だった 
必死になって二人を探す親達の話も少しだけ知った

<お母さん…> 時々母親を思って淋しくなってた 
でも まだ帰りたいとは思わなかった 

彼が私を包んでくれる
海が私を包んでくれる 

それだけで 幸せだった




1 | 2 | 3 | 4 | 最初次のページへ >>