走っていくエームの後姿を見つめながら、イチは思った。
(不思議ですね。
生まれ育った村が消えてしまったのを見てから、
ずっと止まっていた心が動き始めている気がする。
消えてしまった何かが少しずつ戻ってきているのを感じる。
からくり人形を見た時から、全ては変わり始めたのかもしれない。
あの時感じた息が止まるような感動。
あれもまだ、心の中に残っている。
前と同じように描いているはずの絵も、
何か微妙に変わってきている。
きっと、これからもっといろんな事が変わっていく気がする)
走っていったエームは、狭い路地に入って見えなくなった。
イチはその路地から目を離さなかった。
ひらひらと揺れる緑色のスカートが、まだ目に焼きついていた。
(もうすぐエームの事が好きになる)
ふいに、そんな予感がした。
しかしその途端、草原の老人に言われた言葉が
体中に響き渡った。
「おまえには、わしの呪いがかかっている事を忘れるな
まずからくり王国を探すんだ。
そうしなければ、おまえの愛している者に死が訪れるだろう」
イチは驚き、胸を押さえた。
インチキだと思い、気にもしてなかった老人の呪いが、
何故か急にイチを不安にさせた。
イチはエームを追って、走り出そうとした。
しかし誰に強く腕をつかまれ、引き戻された。
驚いて振り返ると、そこにいたのはヴァールだった。
「どういう事だ、イチ」
ヴァールは怒りに燃えた目で、イチをにらんでいた。