「ヴァール?どうしたんですか?
それに、仕事は?」
「塔の工事なら、さっき終わったよ。
明日から、また新しい仕事を探さなきゃならない。
だから今日のうちにエームに会いたかったんだ。
この前来た時はいなかったから。
ああ、もう、そんな事より!」
ヴァールは太く逞しい腕を、
イチの首にまきつけた。
そして低い声でささやいた。
「俺がエームに惚れてるって事、
おまえに言ったはずだよな。
それなのに、なんだよ、さっきの・・・」
さっきの二人の目は・・・・
と、言おうとしたが、
結局言わずに、口を閉じた。
言いたくなかったからだ。『二人』なんて。
(それにエームのあの目は、
どう見たって、恋してる女の目じゃないか!
まだイチがこの町に来てから、4日しか経ってないのに、
なんでこんな事になってるんだ?
俺は一年前からエームに惚れてるのに)
ヴァールは怒りにまかせて、
イチを突き飛ばした。
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